9・11テロ20年

識者に聞く(下)中山慶大教授「米国の責任ではないと割り切った」

中山俊宏慶大教授
中山俊宏慶大教授

2001年9月11日の米中枢同時テロで米国はアフガニスタンの旧タリバン政権を打倒し、民主主義を同国に根付かせようと20年間にもおよぶ「テロとの戦い」を続けてきた。米国の介入政策や外交姿勢などについて日米の有識者に聞いた。


中山俊宏慶大教授

--米国の介入政策はどう変化してきたか

「第二次世界大戦後、米国の存在そのものを脅かすソ連と対峙(たいじ)し、世界規模で勢力圏争いが繰り広げられた。共産圏の広がりを阻止するという考え方が、米国の介入政策の起源だろう。冷戦が終わった後も、リベラル・デモクラシーを広めるため、時に躊躇(ちゅうちょ)しつつも、米国は介入を進めた。それは圧倒的な力を持つ米国だからこそ可能な介入だった。コソボ紛争における人道的介入などがその例だ」

「ところが2001年の米中枢同時テロで、米国の存在を脅かすテロの脅威が認識され、テロの温床である国々を米国のような姿に作り替えていけば脅威はなくなるとの考えで介入するようになった。アフガニスタンの対テロ戦争では当初、テロリストを標的にし、壊滅させることが目的だったが、次第に民主主義や人権といった概念を定着させることが目的になっていった」

--アフガンからの駐留米軍撤収はトランプ前大統領が決め、バイデン大統領が引き継いだ

「米国には過剰に引き受けた自国の国際的な責任をリリースしたいという考え方がある。老練な政治家であるバイデン氏は軌道修正もできたが、アフガンを見限っても政治的に大きなマイナスにはならないという冷徹な現実的主義に基づいて『戦争を終わらせる』決断を貫き通した。テロとの戦いの20年間でかろうじて根づいた民主主義や女性の権利が米軍撤収で後退しても、『もう米国の責任ではない』と割り切った」

--中国との大国間競争も影響しているのか

「米国は中国との戦略的な競争こそが中心的な争点だと考えている。そこで抱え込んでいる負担を整理し、アフガンをリリースするという側面がある。よりマクロで見れば、中東における米国の死活的な利益は減じたという判断がある。それとは対照的に、西太平洋は世界経済のエンジンであり、直接国益につながる。米国は今、対処すべき課題の優先順位の付け直しをしている」

(坂本一之)

【プロフィル】中山俊宏(なかやま・としひろ)

青山学院大大学院国際政治経済学研究科博士課程修了。1993年に米紙ワシントン・ポスト極東総局記者。日本政府国連代表部 専門調査員、日本国際問題研究所主任研究員などを経て2014年から慶大総合政策学部教授。54歳。