【朝晴れエッセー】満天の星・9月16日 - 産経ニュース

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朝晴れエッセー

満天の星・9月16日

ライダーの友人と2人で信州に行ったのは、23歳の夏だった。免許を取得して初めてのツーリングのため、私は彼の後を慎重に走ってついて行った。

信州をめぐって目にする光景は、これが日本の原風景ではないかと思い、一瞬でこの土地の虜(とりこ)(とりこ)になってしまった。

日も暮れたので、野宿に適した場所を見つけてバイクを止めた。ライトを消すと街灯もなく闇が迫った。

遠くに黒く見える尾根は、巨大な恐竜の背を想像させた。真上を見上げると、満天の星が煌(きら)めく。信じられない星の数を見て、思わず友人と詠嘆した。

あおむけになって星空を見ていたら、家出をして上京したことを思い出し、自然と涙があふれてくる。

感傷に浸っていると人の気配がして、誰かが近づいてきた。

懐中電灯を照らして歩いてきたのは見知らぬ中年男性だった。話し声を耳にして、何かトラブルでも起きたのかと心配になり見に来たという。

ここで野宿をすると話したら、よければ家に泊まらないかと誘う。星空の下で眠りたいからと、親切な申し出は断った。

満天の星が本来の姿で、明るい都会の夜では星は見づらいと知った。

親の愛や他人の優しさも、都会の星のように、若かった自分には少し見づらかったのではないかと、今にして思う。


仲川友康 59 東京都杉並区