【我流~社会部発】五輪出場の夢 義足選手が問う共生社会 - 産経ニュース

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五輪出場の夢 義足選手が問う共生社会

パラリンピック3連覇を果たした義足のジャンパー、マルクス・レーム。彼の夢は五輪出場だ=国立競技場(佐藤徳昭撮影)
パラリンピック3連覇を果たした義足のジャンパー、マルクス・レーム。彼の夢は五輪出場だ=国立競技場(佐藤徳昭撮影)

東京パラリンピックが閉幕した。新型コロナウイルス禍で原則無観客開催となったが、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮する姿をテレビで観戦した人も多いだろう。東京大会を単なる祭典で終わらせるのではなく、この経験を生かして大会の理念である「共生社会」をどう実現させればいいのか。閉幕までの13日間、選手たちを取材する傍らで自問していた。

新競技テコンドーに出場した田中光哉(29)は、生まれつきの障害で右手の指は1本、左手は3本しかない。幼いころから健常者とサッカーに打ち込み、自身を障害者だと意識せずに過ごしてきた。

しかし現実は違った。電車内で自分の指をじっと見つめる子供と、慌てて目をふさぐ母親。周囲の何気ないしぐさが、自分が障害者であることを痛感させた。

転機は学生時代に経験したオーストラリア留学だ。日本の電車内と同じようなシチュエーションになったとき、目が合った親子からほほ笑みかけられた。「生活の中で障害をさらけ出していても居心地がいい。日本と違うなと肌で感じた」

善悪ではなく、障害者との向き合い方の違い。それは多様性を認め、誰もが個性や能力を発揮し、活躍できる共生社会の実現というパラの理念とも重なる。

その意義と難しさを考えるため、ぜひ知ってもらいたい選手がいる。

男子走り幅跳び(義足・機能障害T64)のマルクス・レーム(ドイツ)。異名は「ブレード・ジャンパー」で、今大会では東京五輪4位相当の8メートル18をマークし、大会3連覇を果たした。

レームの長年の夢は五輪出場。「義足の性能ではなく、人間の努力を見てほしい」と訴えたが、義足の優位性を指摘する声があり、国際オリンピック委員会(IOC)は参加を拒否、スポーツ仲裁裁判所(CAS)も訴えを退けた。

「参考記録でメダルをもらえなくてもいい」。彼が望むのは、健常・障害の壁を跳び越える姿を示すことだけだという。

パラ選手が五輪に出場した前例としては、両脚義足のオスカー・ピストリウス(南アフリカ)が2012年ロンドン大会に出場し、五輪初の義足陸上選手として話題を呼んだ。思い切ってレームのような有力選手の五輪出場を検討してはどうだろう。もちろんスポーツは公平性が重要だ。義足が競技に有利に働いていないとの科学的証明は不可欠で、多くの人々が納得できる厳格なルールも必要になるだろう。

日本では、五輪は熱心に観戦しても、パラには興味がないという人は少なくない。ただ、パラのスター選手が五輪で活躍する姿は、パラに関心のなかった人々にも何らかの気づきを与えるのではないか。レームの挑戦を想像することが、共生社会を考える一歩になると信じている。(社会部 小川原咲)