丹下建築「船の体育館」 保存か解体か - 産経ニュース

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丹下建築「船の体育館」 保存か解体か

旧香川県立体育館。形は「和船」に例えられるが、設計した丹下本人は「日本刀の反りをイメージした」と語っていたようだ(船の体育館再生の会提供)
旧香川県立体育館。形は「和船」に例えられるが、設計した丹下本人は「日本刀の反りをイメージした」と語っていたようだ(船の体育館再生の会提供)

独特な外観から「船の体育館」と呼ばれる旧香川県立体育館(高松市)は、世界的な建築家、丹下健三氏(1913~2005年)が設計を担当したモダニズム建築。老朽化を理由に平成26年に閉鎖されたが、保存するか解体するかは決まらず、県教委が民間からアイデアを募って活用法を探る「サウンディング型市場調査」を実施している。耐震補強の必要があるなど再活用に課題もあるなか、新しい活用方法が見いだせるのか。地元や関係者の注目が集まっている。

旧香川県立体育館のエントランス側。屋根が上に反るように大きくせり出している
旧香川県立体育館のエントランス側。屋根が上に反るように大きくせり出している
同じものつくれない

船の体育館は昭和39年に完成した鉄筋コンクリート造、地上3階地下1階の建物だ。巨大な縁梁と側梁、柱などでケーブルとつり屋根を支える仕組みと、彫刻的なコンクリートの造形が特徴的で、屋根の両端が高く曲線を描く外観は「和船」に例えられる。

平成24年7月に耐震調査をしたところ、天井板が落下する危険性が判明したため、アリーナの使用を中止に。耐震改修工事の入札を行ったが不調に終わり、閉館が決まった。

建築家の丹下健三氏
建築家の丹下健三氏

その後、歴史的建築物などの保存に取り組む米国のワールド・モニュメント財団が、緊急に保存が必要な「危機遺産」に登録。現在、敷地内は立ち入り禁止となり、内部は倉庫として使用されている。

県教委生涯学習・文化財課の担当者は「職人の手仕事がまだ残っている時代の建物。今の時代に同じものを造るのは不可能だろう」と指摘する。

見通し立たず

貴重な建物であることには間違いないが、閉館から7年を経ても、保存や再活用の見通しは立たないまま。耐震工事のめどが立たないうえ、維持する場合は、財政的な問題もあり、現時点では解体という選択肢も残されている。

新県立体育館が今年度中にも着工される見通しの中で、県教委は今年7月から、サウンディング型市場調査を実施。民間事業者から提案や意見を募ることにした。体育館という用途に限らない再生提案を募集し、何とか活路を見いだしたい考えだ。

旧香川県立体育館は側面の大きな梁で屋根を吊り、それを大きな4カ所の柱で支える構造だ
旧香川県立体育館は側面の大きな梁で屋根を吊り、それを大きな4カ所の柱で支える構造だ

県教委にはすでに数件の問い合わせや提案の意思表明があるという。市場調査の担当者は「(船の体育館は)県民の貴重な財産で芸術的な価値もある。何とか生かす方法を探している」と話していた。

保存求める活動も

船の体育館の設計者の丹下氏は、広島平和記念資料館や東京都庁などを手掛け、船の体育館と同時期には、国立代々木競技場の設計もしている。初期の代表作には、香川県本庁舎(現・東館)もあり、今年8月、米紙ニューヨーク・タイムズ発刊の雑誌企画「最も重要な戦後建築25選」にも選ばれている。

丹下健三氏が手がけた香川県庁東館。日本伝統の寺社建築の手法をコンクリートで整然と表現している
丹下健三氏が手がけた香川県庁東館。日本伝統の寺社建築の手法をコンクリートで整然と表現している

地元では、何とか船の体育館を残したいと建築士らが有志団体をつくって保存運動を進めてきた。

「船の体育館再生の会」代表の河西範幸さんは「将来的に価値は確実に上がる。何としても建物を残したい」と訴える。

ただ、今回の調査については「県と民間の対話機会があるのは一歩前進だが、事業を前提とした提案を求めていて期間が短い。まずは耐震補強に関して専門家に意見を聴いてほしい」とも話していた。

また、建築家の斎藤公男(まさお)さんが主宰する、建築と技術の融合を討議する「A-Forum」は9月上旬、船の体育館をテーマにしたオンライン検討会を実施。

斎藤さんは「完全修復に限定せずイメージを継承するなどさまざまなやり方が考えられる」と指摘。

参加者からは「日本からも世界からも注目されている建物を残すのは県の責任だ」などの声があがっていた。

県教委の市場調査の参加申し込みの期限は、9月30日。その後、提案者との面談などを行い、調査結果は12月に公表される予定となっている。(和田基宏)