【北川信行の蹴球ノート】異例の午前10時キックオフ、INACが仕組んだ「ブルーオーシャン戦略」 - 産経ニュース

メインコンテンツ

北川信行の蹴球ノート

異例の午前10時キックオフ、INACが仕組んだ「ブルーオーシャン戦略」

整列するINAC神戸(奥)と大宮の選手。異例の午前10時キックオフだった=ノエビアスタジアム神戸(撮影・中島信生)
整列するINAC神戸(奥)と大宮の選手。異例の午前10時キックオフだった=ノエビアスタジアム神戸(撮影・中島信生)

「競争の激しいレッドオーシャンではなく、競争相手が少ないブルーオーシャンを狙え」-。ビジネス本などを手に取ると、よく見かけるフレーズだが、12日に開幕した日本初の女子サッカーのプロリーグ「WEリーグ」で、INAC神戸レオネッサ-大宮アルディージャVENTUSが異例の午前10時キックオフとなった背景には、INAC神戸のしたたかな「ブルーオーシャン戦略」があった。

INAC神戸が本来狙っていたのは、記念すべきホーム(ノエビアスタジアム神戸)でのリーグ開幕戦を、どのようにすればテレビの地上波でナマ中継してもらえるか、だった。結果的に関西ローカルながら、朝日放送テレビ(ABC)でのナマ中継に成功したが、そこにいたるまでには紆余曲折(うよきょくせつ)があった。

INAC神戸の安本卓史社長によると、まず確認したのは、関西で絶大な人気を誇るプロ野球阪神タイガースの試合日程。甲子園球場でのホーム試合なら、ABCでの中継があってダメだが、この日は横浜球場でビジターの横浜DeNAベイスターズ戦。それなら、放送枠が空いているのではないかと考え、相談を持ち掛けたのだという。

ところが、女子ゴルフのメジャー大会の一つ、日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯最終日(茨城県静ヒルズCC)の中継で埋まっていた。一度は断念したが、知り合いのプロデューサーから「朝10時からは、あり得ますか?」との逆提案があり、チームを率いる星川敬監督とも協議し、提案を受けることにした。東京五輪・パラリンピックでも午前中に競技が行われることから、午前中にスポーツを見る感覚が残っている人も多いのではないか-との思惑もあったという。

その後は、数カ月にわたって調整作業を続け、スポンサー企業や対戦相手の大宮の理解も得て実現にこぎつけた。

前半4分、先制ゴールを決めたINAC神戸・高瀬愛実(右)=ノエビアスタジアム神戸(撮影・中島信生)
前半4分、先制ゴールを決めたINAC神戸・高瀬愛実(右)=ノエビアスタジアム神戸(撮影・中島信生)

結果的にINAC神戸-大宮がWEリーグ最初の試合となったことで、スタジアムには岡島喜久子チェアが訪れて「世界一の女子サッカーと世界一の女性コミュニティー実現に向け、みんなが主人公になるために、WEリーグがステージになります」と開会宣言。前半4分に生まれたINAC神戸のFW高瀬愛実のこの試合での最初のゴールが、リーグのゴール第1号となる〝副産物〟も生まれた。「INAC神戸の開幕戦」が「WEリーグの開幕戦」にスケールアップし、リーグ史に残る試合となったのだ。

スポーツの世界で、イベントの多い土日の午後は競争相手がひしめくレッドオーシャン。生まれたばかりで、認知度アップが大きな課題となっているWEリーグが、プロ野球やJリーグ、さらには12日が秋場所の初日だった大相撲などと真っ向勝負するのは得策ではない。さらに、ネット中継だけでは、どうしてもコアなファンが中心になりがち。新規のファンを開拓するには、テレビの地上波によるナマ中継のメリットははかりしれない。

そういった点も勘案すると、午前開催はひとつの解決策になるのではないか。INAC神戸のブルーオーシャン戦略には、他競技のリーグやチームが見習うべき点が多くあるように思う。