【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(310)】球団最後の優勝 上田監督は舞い、今井は酔う - 産経ニュース

メインコンテンツ

勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(310)

球団最後の優勝 上田監督は舞い、今井は酔う

祝勝会で酒樽に放り込まれた今井=西宮球場
祝勝会で酒樽に放り込まれた今井=西宮球場

昭和59年シーズンのクライマックスがやってきた。9月23日、優勝マジックを「1」にしていた阪急。2位のロッテが西武に敗れ、6年ぶり10度目のリーグ優勝が決まった。ちょうど4―4の同点で迎えた近鉄の攻撃のときだった。上田監督は八回、ベンチで選手全員を集めた。

「いま、優勝が決まった。けど、この試合をなんとしても勝とうやないか!」

「おおぅ!」

◇9月23日 藤井寺球場

阪急 000 000 404=8

近鉄 020 011 000=4

(勝)今井21勝9敗 〔敗〕良川4敗

(本)栗橋⑭(今井)

近鉄の救援陣に襲いかかった。九回2死二塁から弓岡、簑田、ブーマーが3連打。松永が四球で歩くと藤田が三遊間を鋭く破り4点を奪った。勝利の瞬間、福本が先頭でベンチを飛び出した。

「初めて胴上げに間に合ったで!」と嬉しそうに上田監督を宙に放り上げた。

この59年シーズン、上田監督は進退をかけて戦った。5月、バンプ問題で指揮権を放棄。「オレを取るかバンプを取るか、二つに一つだ」と球団フロントに迫った。

「あのときは辞任も考えた。だけど私には〝強い阪急〟を作る―という責任がある。なんとしてもやり遂げなくてはいけないと思った」

57年オフ、上田監督はまだ十分に使える島谷や大橋、高井、河村らベテラン選手を強引に引退させ、コーチなどに転職させた。そこから松永や弓岡、小林晋といった若い選手たちが芽吹いた。

「地獄」といわれた広島・神勝寺での秋季キャンプでは「オレたちの分まで…」とそのコーチたちが朝から晩まで彼らを鍛えあげたのである。

つながる思い…。山田から「胴上げ投手は任せた」と託された今井も、この試合を14安打されながら4失点に抑えて完投。胴上げのマウンドを死守した。

午後7時過ぎ、西宮球場で祝賀パーティー。山田が今井の頭にビールをかけると大騒ぎが始まった。樽酒が開けられ、その中に今井が放り込まれた。

「胴上げもうれしいけど、オレはこの方が幸せやぁ」

最多勝利に最優秀防御率のタイトル2つ。そして胴上げ―と、雄ちゃんは〝三冠投手〟になった。(敬称略)