石炭が探るカーボンニュートラルへの道 トリプル複合発電、アンモニア混焼、CCS、CO2再利用…イノベーションの最前線

実証試験が進む大崎クールジェン
実証試験が進む大崎クールジェン

石炭火力発電がカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)に挑んでいる(※)。安価で埋蔵量の豊富な石炭は日本のエネルギー安定供給に長く貢献し、いまも発電量のうち約3割を担う重要電源。政府が2050年のカーボンニュートラルを掲げるなか、二酸化炭素(CO2)排出の削減余地の大きい石炭火力は目標達成への鍵も握る。発電効率の向上に加え、水素やアンモニアとの混焼による排出削減、CO2を回収して地中に貯留する「CCS」、CO2を資源として再利用する「カーボンリサイクル」などイノベーション(技術革新)の芽吹く、フロンティア(最前線)を探った。

※石炭火力が排出するCO2で大気中CO2を増やさないこと。発電効率を上げて石炭の使用量を減らしつつ、バイオマスのような大気中CO2を吸収して育った燃料やアンモニアのようなCO2を出さない燃料を混焼するなどしてCO2の排出量を減らし、さらにCCSやカーボンリサイクルによってCO2を地中貯留したり、有効利用したりすることで大気中のCO2を増やさないこと。

石炭ガス化で高効率に

「安芸の小京都」と呼ばれる古風な街並みが残る広島県竹原市の港からフェリーで30分。瀬戸内海の真ん中に浮かぶ大崎上島は造船や海運で栄え、温暖な気候で育つミカンなどの柑橘(かんきつ)やブルーベリーの島としても知られる。この自然豊かな地で、カーボンニュートラルを目指すプロジェクトが進んでいる。

石炭ガスからつくる水素などを利用し、CO2の大幅削減を目指す計画だ。中国電力と電源開発(Jパワー)が共同出資する大崎クールジェンが実施し、石炭を活用した次世代のエネルギーとして注目が集まる。

プロジェクトの敷地(約10万平方メートル)には、通常の発電所と同様にタービンやボイラーの建屋が並ぶとともに、高さ約80メートルの炉がそびえ立つ。大崎クールジェンの技術担当者は「ガス化炉で石炭に酸素を吹き込みながら蒸し焼きにし石炭ガスから水素を生み出せる」と説明する。

従来の微粉炭火力は、石炭を燃焼した熱で発生する蒸気で、蒸気タービンを回して発電する。蒸気の温度や圧力を上げることで発電効率は高まるが、最先端の「超々臨界圧(USC)」では41~43%程度まで引き上げられ、温暖化対策に貢献してきた(※)。さらなる温暖化対策が求められるなか、価格が安く、世界的に入手しやすいメリットがある石炭にとって、発電量あたりのCO2排出量が多い石炭火力は一層の高効率化に向けた技術開発が進められている。※出典:資源エネルギー庁

その一つが、大崎クールジェンの石炭ガス化複合発電(IGCC)だ。石炭を蒸し焼きにして生成した可燃性ガスを燃焼し、ガスタービンを回す。

併せて、排熱から発生する蒸気も蒸気タービンで発電する複合発電(ダブル発電)で、効率を大幅に高める。プロジェクトの「第1段階」として16年度から実証試験に取り組み、商用機を想定した効率は46%まで向上した。結果、CO2排出量はUSCから15%の削減が期待できるという。

排出量の90%以上を分離・回収

ガス化にはもう一つのメリットがある。通常の微粉炭火力で燃焼した後の排ガスに含まれるCO2と比べ、大崎クールジェンのような酸素吹きIGCCは、燃焼前の石炭ガスは加圧状態のため相対的に体積が小さく、CO2が高濃度な状態のため回収効率も高まることだ。

ここで得られる高濃度のCO2を利用して、複数の企業や大学等が30年のCO2有効利用技術の技術確立、実用化に向けた研究開発・実証事業を行うためのカーボンリサイクル実証研究拠点整備事業も始まっている。ここでは、CO2を資源として活用し、化学品や燃料、鉱物固定化した構造物などを作り出すカーボンリサイクルに関する実証研究が今年12月から始まる予定だ。様々な基礎研究が行える研究室を有する基礎・先導研究拠点も設置され、22年6月の運用開始予定だ。さらには地域の産業や大学との連携によりカーボンリサイクル先進地域を目指す「広島県カーボン・サーキュラー・エコノミー推進協議会」が設立され、今後の地方創生のモデル的な取り組みも始まった。

大崎クールジェン内にある新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発・実証事業の拠点整備事業用地。
大崎クールジェン内にある新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発・実証事業の拠点整備事業用地。

大崎クールジェンは「第2段階」として19年度から実施した実証試験で、CO2分離回収設備における90%以上のCO2回収効率の目標を達成した。さらに、22年度にはプロジェクトの仕上げとなる「第3段階」として、ガスタービンと蒸気タービンによる発電に加え、分離した水素リッチガスを利用した燃料電池も加えた“トリプル”複合発電の実証に入り、いっそうの高効率化を目指す。

政府が今年7月に示した次期エネルギー基本計画の素案には、再生可能エネルギーや原子力などの脱炭素電源と並び、「火力発電のイノベーションを追求」と明記された。電源構成に占める火力の比率は引き下げる方向だが、再エネの変動性を補う調整力・供給力を確保し、30年度でもLNGは約20%、石炭は約19%を担うとしている。

同担当者は「本技術がカーボンニュートラルの実現に貢献する」と力を込める。

アンモニア混焼“脱炭素”燃料への期待

エネルギー基本計画の素案では、CO2排出削減の手段の一つとしてアンモニアなど脱炭素燃料との混焼も選択肢に挙げられている。燃焼時にCO2を排出しないうえ、農作物の肥料などとして輸送技術が確立しているためだ。経産省によると、国内大手電力の石炭火力に、アンモニアを20%混ぜて発電すると、CO2排出量は4000万トン削減できる。電力部門の排出量の約1割に相当し、大きな効果が期待できる。

碧南火力発電所の石炭火力発電プラント 提供:JERA
碧南火力発電所の石炭火力発電プラント 提供:JERA

このため東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAは今年度から碧南火力発電所(愛知県)で実証をスタートし、24年度に100万キロワットで20%混焼の実現を目指している。

CCSとCO2再利用の推進

「2050年までに温室効果ガスを全体としてゼロにする」。菅義偉首相は昨年10月の所信表明演説でこう述べ、カーボンニュートラルへの決意を表明した。

日本で18年に排出された温室効果ガスは12億4000万トンで、うち10億6000万トンをCO2が占める。発電の高効率化を追求しても排出削減には限界があり、全体として足し引きゼロを目指すにはCO2の「回収」「固定」が不可欠だ。

19年11月22日、北海道苫小牧市で実施している日本初の大規模なCCSの実証が節目を迎えた。目標のCO2貯留量30万㌧を達成し、実用化への第一歩を踏み出したためだ。CO2圧入は16年から近隣の製油所の水素製造設備から発生するガスをパイプラインで輸送し、CO2を分離・回収。海岸から約3~4㌔離れた地点の、海底より1キロ以上深い2層の地層に圧入し、3年8カ月かけて実現した。

北海道・苫小牧市のCCS実証試験 提供:日本CCS調査
北海道・苫小牧市のCCS実証試験 提供:日本CCS調査

CCSは発電所に併設すれば、CO2を吸収して実質的にほぼ排出しない火力も可能になる。また、CCSのCO2分離・回収・貯留技術はそのままカーボンリサイクルに活かことができる。

「貯留したCO2をどう活用し、副成物をつくっていくか。セメントやプラスチックに混入させる手段もある」。梶山弘志経済産業相は昨年7月の閣議後会見で、こう述べた。

CO2は植物や藻類の光合成に不可欠な要素。太陽エネルギーを使って水とともに、でんぷんなどの有機物や酸素を生み出す。この働きと同様の「人工光合成」を行うことで、工場が排出したCO2を再利用して樹脂原料のオレフィンなど有機化合物を生み出す技術開発が進んでいる。また、CO2削減を迫られる航空業界では藻類の培養に活用し、バイオマス由来のジェット燃料とする技術に期待が高まっている。さらに、コンクリートの混和材にCO2を吸収する材料を使い、セメント使用量を減らすカーボンリサイクル技術「CO2吸収型コンクリート」は既に実用段階に入っている。

異常気象など気候変動リスクが高まるなか、世界的にカーボンニュートラルへの挑戦が始まっている。全方位でイノベーションを加速し、課題解決への道筋を付け、次の成長の原動力につなげられるかどうか。エネルギーの未来が問われている。

■提供:一般財団法人石炭フロンティア機構(JCOAL)


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