【石仏は語る】類例のない浄土信仰の様相 誠心院伝和泉式部宝篋印塔 - 産経ニュース

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石仏は語る

類例のない浄土信仰の様相 誠心院伝和泉式部宝篋印塔

誠心院伝和泉式部宝篋印塔
誠心院伝和泉式部宝篋印塔

多くの人であふれかえる寺町筋の新京極界隈(かいわい)。もともとは鴨川の河川敷でした。天正年間(1573~92年)に豊臣秀吉が洛中の寺々を集めて整備し、その一角に真言宗泉涌寺(せんにゅうじ)派の華獄山東北寺誠心院(せいしんいん)が位置します。ここに伝和泉式部の塔といわれる、巨大な珍しい宝篋印塔(ほうきょういんとう)があります。

この宝篋印塔は花崗岩(かこうがん)製、全高約340センチの石塔は、関西型式の特徴を備えています。二重の基壇があり、その上に二石材の切り石による四面無地の基礎一段と、さらに反花座(かえりばなざ)の上端に一段と下端に一段の間には、各面に肉厚な複弁一葉を配し、さらにその間に小花の蓮弁を配置します。隅弁は間弁にならない大胆な膨らみをもち、丁寧な形のよい蓮華花弁はみごとです。

笠部の軒と下端は一石二段に刻まれ、塔身の上に置かれます。上端の六段を一石でおのおのに造り重ねています。隅飾突起は別石造り、三弧輪郭を付けた突起を四隅に置きます。相輪部には伏鉢はなく、請花(うけばな)、九輪、頂部の宝珠、請花は後補です。

塔身部は高さ約52センチ、幅約54センチの一石ですが、この部分は本尊を意味し、金剛界四仏などを表現する例が一般的です。ところが、この塔身部には正面に阿弥陀三尊の種子が刻まれ、ほかの三面は無地です。中央に線刻の蓮華座と大きな月輪(がちりん)内に阿弥陀如来(キリーク)が、向かって右下に蓮華座と小さな月輪内に観音菩薩(サ)、同じく左下に勢至菩薩(サク)の梵字種子が刻まれるという、類例のない浄土信仰の様相が見られます。

そのことは基礎背面の銘文に「比丘尼妙性、比丘尼法阿/大願主、勧進僧浄心、比丘尼妙性、比丘尼覚性、比丘尼行阿、比丘尼道圓、比丘尼妙阿、僧仙圓、僧蓮厳、沙弥善願、僧唯念、正和二(1313)年五月日」とあり、発願尼僧らによる念仏供養塔ということが分かるのです。(地域歴史民俗考古研究所所長 辻尾榮市)