【ビブリオエッセー通信】 もうひとつの八月十五日と日本人 - 産経ニュース

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ビブリオエッセー通信

 もうひとつの八月十五日と日本人

『八月十五日に吹く風』など
『八月十五日に吹く風』など

8月は戦争をテーマにした「私の一冊」が続いた。山田風太郎『戦中派不戦日記』(8月11日掲載)に始まり、田辺聖子『私の大阪八景』(同12日掲載)、松岡圭祐『八月十五日に吹く風』(同13日掲載)、郷静子『れくいえむ』(同16日掲載)、浅田次郎『終わらざる夏』(同18日掲載)。投稿者はミドルからシニア世代、90歳まで。体験を超えて呼び覚まされる記憶があるのだろうか。若い世代からも読んでみたいという声を聞いた。

そこでは日記を書く若き山田青年に出会い、女学生の聖子さんと戦時中の大阪を歩く。個人的にはそんな気分だ。『れくいえむ』は女学生らの悲しい青春が戦時下の往復書簡でよみがえる。そして終戦後に始まったソ連との理不尽な戦いを描く『終わらざる夏』には戦後が突きつけられた厳しい現実がある。

「父のことが掲載されていたと知人に聞きました」

「一昨年亡くなった日本文学研究者、ドナルド・キーンの息子です」と、いただいたメールはキーン誠己さんからだった。以前、ドナルド・キーンさんにお会いして以来だ。

『八月十五日に吹く風』はアリューシャン列島の戦線が舞台で、特にキスカ島の日本軍撤退作戦に取材している。もうひとつの「八月十五日」とは。

ロナルド・リーンという名で登場する米軍通訳官は明らかにキーンさんがモデルだ。過酷な戦場で親日派の青年が理解に努めた日本人の姿がそこにある。史実に基づく小説だがさすがは作家の筆力、戦時下を追体験するように感動がこみ上げる。

「この小説は知りませんでしたね。父を広く知っていただくのはありがたい。さっそく読み始めます」

一冊はもう一冊につながる。さっそくキーン著作集から「日本人の戦争」を開いた。戦友の米軍日本語将校らと交わした書簡の数々。終戦直後の日本人へのキーン青年の思いが記されている。

来年は生誕100年。これを記念した特別展が神奈川や京都などで開催予定という。キーンさんとの去り際に「『源氏物語』をぜひ読んでください」と笑顔で念を押されたことを思い出した。すみません、読み始めて、いま挫折中です。

戦争は今も。石井光太『砂漠の影絵』(同27日掲載)の背景はイラク戦争だ。掲載日の1面は「アフガンIS自爆テロ」だった。投稿した零(レイ)さんからはこんなメールが。「『砂漠の影絵』は私にとって特別な本になりました。タリバン政権の動きにも注目していきたいと思います」。

ビブリオエッセーも世界の動きと無縁ではない、と締めたいところだが気楽にお書きください。間口はあきれるほど広いので。(荻原靖史)