【書評】『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』白石あづさ著 他者への愛、真っすぐに - 産経ニュース

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書評

『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』白石あづさ著 他者への愛、真っすぐに

『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』
『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』

今から3年前、山口県の周防(すおう)大島で行方不明の2歳の男の子を発見し、一躍時の人となった尾畠(おばた)春夫さん。その年の流行語大賞トップテンに入った「スーパーボランティア」(受賞辞退)なる言葉がご本人の意思と関係なく独り歩きしたけれど、本当はどんな方なのか。81年の知られざる半生と、数々の含蓄のある言葉を紹介し尽くしたこの本は、面白い上に、ためになることばかりで一気に読んだ。

2部構成になっており、著者が3年にわたって尾畠さんと交流を重ね、その素顔を追ったルポと、尾畠さん自身のことばをつづったコーナーが交互に出てくる。とりわけ強烈に心に残ることばは、表題でもある「お天道様は見てる」だ。ありきたりのフレーズだけど、無宗教だという尾畠さんにとっての「お天道様」とは何を指すのか。そう、10歳のときに貧困の中で亡くした母なのだ。

幼くして農家に奉公に出され、鮮魚商修業に励んだ青春。高度成長期には鳶(とび)職をして独立資金を稼ぎ、やがて自ら鮮魚店を構えて長く営んできたが、65歳できっぱりと店をたたんだ。以降、ボランティアにささげる日々。生活は清貧そのもので、決して多くはない年金の大半は被災地に行くガソリン代などに消えるという。

ボランティアと簡単に言うけれど、尾畠さんのように注目されると難しい面も多い。私自身、売名行為だの心ない言葉に折れそうになったこともある。でも彼は自らの信念に真っすぐで強い人だ。どんな苦難があっても、良いことをしても悪いことをしても、お母さんが空から見てる。だから頑張れるのだ。

もう一つ、この本を通じて私が肝に銘じたのは「何かあってからでは遅い」ということ。地球環境が悪化する中、もはや「想定外」は許されない。転ばぬ先の杖(つえ)というが、普段から災害に備え、訓練をしておく大切さを改めて胸に刻んだ。

何より、尾畠さんは心から自然を愛し、敬っている。そして他者のために動くことをいとわない。だから小さな異変にも気づき、五感を研ぎ澄ませることができる。小さな坊やを発見した背景には、そんな生き方があるのだろう。ぜひ、次代を担う若い人たちにも読んでほしい。(文芸春秋・1815円)

評・鳥羽一郎(歌手)