【ザ・インタビュー】現地で感じる築城家の息吹 作家・伊東潤さん『歴史作家の城めぐり〈増補改訂版〉』 - 産経ニュース

メインコンテンツ

ザ・インタビュー

現地で感じる築城家の息吹 作家・伊東潤さん『歴史作家の城めぐり〈増補改訂版〉』

築城家の思いを想像しながら幾多の人間ドラマを紡いできた作家の伊東潤さん
築城家の思いを想像しながら幾多の人間ドラマを紡いできた作家の伊東潤さん

城からは、数百年を経てなお生々しく残る「人の意志」が感じられる-。戦国時代の東国を題材にした作品が多い作家、伊東潤さん(61)が新刊『歴史作家の城めぐり<増補改訂版>』を刊行した。城めぐりをきっかけに作家としてのキャリアをスタート。これまでに全国の700以上の城を訪問したという文壇きっての城愛好家が語る城の魅力とは。

近年、空前の盛り上がりを見せる城ブーム。愛好家の拡大とともに、天守や石垣などの派手な遺構がないため従来あまり注目されてこなかった、自然地形を巧みに利用した堀や土塁からなる東国の「土の城」の人気が高まっている。

「関東に土の城が多いのは、関東ローム層という加工しやすく崩れにくい地層があったから。必ずしも石垣の城が進んでいて土の城が遅れているというわけではない。実戦重視だった戦国時代の関東で、いかに短い工期で防御効果が高い城を効率的に築くかを考えれば、土で造るのは当然の選択でした」

■ ■

今作は伊東さんがこれまで探訪した城の中で、東京から行きやすい関東周辺の47城をピックアップした城郭ガイド。3年前にプレジデント社から刊行した同名作に12城を追加したアップデート版で、自作の舞台となった城も多い。北条氏の本拠で戦国時代随一の大城郭として知られる小田原城(神奈川県小田原市)をはじめ、小規模ながら高度に技巧的な構造が満載で「土の城の最高傑作」と評される杉山城(埼玉県嵐山(らんざん)町)、水軍拠点の入り江を守ることに特化した下田城(静岡県下田市)など、有名無名さまざまな城を紹介。一つとして同じものがない縄張り(城の設計構想)の読み解きや各城にまつわる武将たちのエピソード、なぜ築城されたかの歴史的背景まで踏み込んで解説していく。

城めぐりの醍醐味(だいごみ)はやはり、遺構から築城家の思惑を直接感じられる点だという。「実際に現地を歩くと、どう敵を迎え撃つかが見えてくる。一般に城は攻め手を近づけないためのものというイメージだが、それでは相手の数が減らない。小幡(おばた)城(茨城県茨城町)みたいにあえて迷路のような城内に引き込んで敵の漸減を狙う城もあるし、浄福寺城(東京都八王子市)のように段々に配置された曲輪(くるわ)を一つ一つ放棄して時間を稼ぎ、後詰め(援軍)を待つ城もある。城は常に死守するものではなく、柔軟に守り方を考えているのが面白い」

■ ■

自身のことを「城が生んだ小説家」と語る。初めて城に関心を抱いたのは平成14年、家族旅行中に偶然立ち寄った山中城(静岡県三島市)でのこと。まるで巨大なワッフルのように整然と大地に刻まれた障子堀の美しさに心を奪われた。さっそく城について調べ始め、城めぐりのホームページを作ろうとした際、「文章を書き始めたら、昔読んだ司馬遼太郎さんの言い回しなどが頭に浮かんできて、自然に小説になってしまって」。そこから原稿の持ち込みなどを重ね、19年に『武田家滅亡』で文壇デビューを果たした。資料調査と考証を重視する硬派の歴史作家として知られ、城の攻防戦を考察した『城を攻める 城を守る』など、歴史ノンフィクション作品も多く手掛けている。

今作で印象的なのは、城の強さ以上に、そのもろさだ。大島城(長野県松川町)は武田の伊那谷防衛線の要となる城だったが、織田軍の侵攻を前に守備兵は戦わずして逃走し、武田家の地滑り的崩壊の端緒となった。難攻不落の小田原城も、天下人を敵に回しては役に立たなかった。優れた兵器があっても、使い手が悪ければ無意味なのは今も昔も変わらない。物言わぬ城を通じて見えてくるのは、そうした人間のドラマだ。「どんな鉄壁の城でも、守る人がおびえてしまっていては全くダメですね。とにかく一番弱いのは、人の心なんですよ」

3つのQ

Q今も城に行っているか?

最近はコロナ禍ということもあり、年に30~40城くらい。取材で同じ城に何度も行くことも多い

Q城めぐりのアドバイスを

最初は1人で行かず、詳しい人に同行すること。事前に城の歴史を調べておくとずっと楽しくなる

Q次回作の予定は?

11月発売予定の『夜叉の都』(文芸春秋)。源頼朝の死から承久の乱までを描く「ノワールな鎌倉」だ

いとう・じゅん 昭和35年、横浜市生まれ。早稲田大卒業後、外資系IT企業勤務などを経て、平成19年に『武田家滅亡』で作家デビュー。25年、『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞、『巨鯨の海』で山田風太郎賞。26年、『峠越え』で中山義秀文学賞。近刊に『琉球警察』『覇王の神殿 日本を造った男・蘇我馬子』など。