【話の肖像画】台北駐日経済文化代表処代表・謝長廷(75)(12)台湾漁船の拿捕…日台に緊張 - 産経ニュース

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台北駐日経済文化代表処代表・謝長廷(75)(12)台湾漁船の拿捕…日台に緊張

《日本側の海域で台湾漁船が拿捕(だほ)され、台湾側が巡視船を出す事案など緊張もあった》

日本が排他的経済水域(EEZ)とする海域(東京都・沖ノ鳥島沖)で、台湾の漁船が拿捕されたことへの抗議で2016年5月上旬、当時与党だった国民党の馬英九(ば・えいきゅう)政権が海岸巡防署(海上保安庁に相当)の3千トン級「宜蘭(ぎらん)艦」など3隻の巡視船を、この水域に送り込んだことがあります。

台湾の漁船を保護するとの名目でしたが、日台関係にかなり緊張が走ったのは事実です。

それ以前にも日台が近接する海域を含め、馬政権の時代に計18件、台湾漁船が日本で拿捕されました。馬政権は否定していましたが、台湾漁民の中には強硬な姿勢で日本側に対抗するとして、中国との共闘をチラつかせる勢力も現れるなど、事態は複雑化しました。

《馬政権時代の台湾は、対日関係で厳しい姿勢だった》

巡視船3隻を出したのは8年間の任期を終えて、馬政権が退陣する最後の時期でした。もちろん台湾の漁民の権益を守ることは重要であり、基本です。しかし、漁業問題を政治利用したとすれば許されません。衝突こそ起きませんでしたが、一触即発の事態だったでしょうね。

当時の馬政権は、「沖ノ鳥島は『島』ではなく、日本のEEZは認められない」との主張でした。従って日本がいうEEZにおいて、台湾漁船の操業は問題ないという立場です。

一方、16年5月20日に発足した民進党の蔡英文政権は、日本側との協議を通じて問題解決を図るべきだと訴えました。蔡政権はEEZに関して国連大陸棚限界委員会(CLCS)の決定を尊重し、それまでは「法律上の特定の立場をとらない」としています。台湾漁民の権益確保には強い関心を持っています。

《漁民は漁場が大切だ。簡単には解決できそうもない》

確かに台湾の漁民の中には誤って日本側の海域に入ってしまうなど、ミスを起こす人もいるでしょう。ときにはルールを守らない漁船があったかもしれません。ただ広い海域で近接している日台の問題は、強硬姿勢ではなくローキー(控えめな姿勢)で解決すべきでしょう。

ひとたび拿捕されると法的な手続きも大変です。一方、蔡政権が発足して、私が駐日代表に着任してからは台湾漁船の拿捕はゼロになりました。対日関係の改善とともに、漁民の側も意識が変わってきましたね。

EEZであっても操業などしない漁船の無害通航は認められています。一方、日本は船の動きをしっかり見ており、どこかの漁民がひそかに操業などしても証拠はつかんでいますよ。

《17年12月には日台間で海難救助の覚書を交わした》

漁船に限らず、海難事故の場合、救助や捜索で日台双方が協力し合うとの覚書です。実務者協議などを重ねていますが、正式な外交関係のない日本と台湾の間では、民間取り決めという形式をとらざるを得ません。ただ制度的にも、より明確な法的措置が日台間には必要ではないでしょうか。もちろん漁業や海域だけではありません。

新型コロナウイルスの感染が広がる前の19年には観光やビジネスなどで、日台間には年間延べ700万人もの往来がありました。このうち台湾から日本に渡航した人が延べ500万人近くです。日台双方がそれぞれの訪問先で、いろいろな権利が法的に保障されない事態も想定されています。台湾との関係や権利保護に法的措置を取ってもらうよう、日本側と粘り強く交渉したいと考えています。(聞き手 河崎真澄)