【書評】『日米の絆 元駐米大使 加藤良三回顧録』加藤良三著、三好範英編 外交の最前線、経験を後世に - 産経ニュース

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書評

『日米の絆 元駐米大使 加藤良三回顧録』加藤良三著、三好範英編 外交の最前線、経験を後世に

『日米の絆 元駐米大使 加藤良三回顧録』
『日米の絆 元駐米大使 加藤良三回顧録』

本書の著者は現役時代、日米同盟を中心に多くの外交問題の解決や処理に最前線で当たった外交官である。沖縄返還交渉と外務省機密漏洩(ろうえい)事件、湾岸戦争時の迷走など、自身の経験を基に踏み込んだ記述をしている。

私は2002年から3年近く在米公使の一人として著者に仕えた。一見華やかな大使の姿とは別に、政策に関して部下の意見を求め議論を交わす様子も、目に焼きついている。

著者は「日本の安保関係者が払ってきた努力とは結局何だったのか」と自問し、「私が精いっぱいやってきたことは、どこか『錬金術』めいたものだったような気がする」と書く。現実の外交交渉では必ずしも満足のいかない合意に達することがある。さまざまな歴史的制約の下にある安全保障関係の案件は、特にそうだ。しかし、「まがいものを金のごとく偽装する」のではなく、「なんとか本物の金か、せめて金に近いものができないか、誠心誠意取り組む」ことを、著者は錬金術にたとえる。

本書では触れていないが、著者はある時、私に「楽観主義は、よくよく考えぬいた上であれば一つの決断ですね」と言われた。あらゆる分析を行っても確信の持てる結論が出ない時、最後は楽観的な見方を取る。そのこと自体が決断だ。根拠のない楽観ではない。錬金術と同様、外交の現場で何度も難しい決断を下し体得した哲学だろう。

また別の日に、「a passion for anonymity(匿名への情熱)という言葉がありますね。あれいいですね」とも言われた。本書でも別の文脈で用いられるこの言葉は、著者にとって理想の外交官像であると思う。だからこそ自分の事績をメディアで語るのを避けていた。「功績を誇りたい気持ちが自分にあると思うと、いやになる」とつぶやかれたこともある。

引退から10年以上を経てストイシズムを乗り越え、自らの経験を後世に伝えるべく本書を世に出した。さらりと語ってはいるものの、所々で激しい思いが表れる多くのエピソード。その一つ一つの背後に深い思索があった。内容は硬いが、インタビュー形式で読みやすい。後輩の外交官や研究者には必読の書、一般読者には優れた外交官の自伝として広く読まれるだろう。(吉田書店・3520円)

評・阿川尚之(慶応大名誉教授)