【日本語メモ】名誉があるのは「撤収」か「撤退」か - 産経ニュース

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日本語メモ

名誉があるのは「撤収」か「撤退」か

米中枢同時テロが発生した2001年から20年間にわたって繰り広げられたアフガニスタン戦争は、長らく駐留していた米軍が8月末にアフガンから引き揚げたことによって終止符が打たれました。

連日大きく報じられることになった米軍の引き揚げについて、「撤退」という表現をする報道機関がある一方、当紙の記事では「撤収」という言葉が使われています。

記事を書いているデスクに尋ねてみると、「撤収」は予定していた作戦が終了して引き揚げることだが、「撤退」となると当初の戦略に反して引き揚げることになり、負け戦の印象があるからとのこと。

今回のアフガンからの米軍の引き揚げについては、延期が繰り返されたものの最終的な期限内に遂行されたことから、「撤収」を選択したという判断には納得がいきました。

また、カブールの空港から離陸しようとする米軍の軍用機の車輪にアフガンの人たちがしがみついている様子を、ベトナム戦争での「サイゴン陥落」になぞらえる報道もありましたが、その戦争で「名誉ある撤退」という言葉が使われていたことを思い出しました。のちに米大統領になるニクソンが、1968年の大統領選挙でスローガンとしていたものです。

戦争の泥沼化で国内外とも厭戦(えんせん)気分が蔓延(まんえん)し、米軍が引き揚げざるを得なくなったところ、「撤退」とすると不名誉な印象があることから、「名誉ある(国益のための)撤退」としたといわれていますが、命がけで戦ってきた兵士たちの受け止めは変わり、精神的にも少しは救われたのではないでしょうか。

選挙ではニクソンの公約が支持されて勝利し、やがて米軍が撤退してベトナム戦争は終結を迎えます。多大な犠牲を払い混迷を深めた戦争から引き揚げるという意味ではやはり負のイメージがある「撤退」という表現がふさわしく感じます。

ところが、撤収・撤退の意味を理解したあとに、他社の新聞やテレビのニュースを注意して見ていると、撤退派と撤収派に分かれていることに気がつきました。撤収・撤退を混同しているのかとも思いましたが、防衛相による自衛隊の撤収命令の記事の中でも米軍には撤退とするなど使い分けがはっきり区別されていることから、その媒体では米軍の引き揚げは行き詰まった末の不名誉な行為だと受け止めているように感じました。

こうなってくると言葉の使い方が正しいかどうかではなく、報道機関ごとの姿勢の違いということになってくるようですが、現地で懸命に戦ってきた兵士たちはこれらの表現の差をどう感じるでしょうか。

撤退・撤収ともに現場から引き揚げる行為に変わりはないものの、その理由や経緯によって使い分けられ、文字にすると受ける印象が随分違ってきます。校閲をする際にも細心の注意でニュアンスをくみ取ることが大切だということを感じた一件でした。

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