【話の肖像画】台北駐日経済文化代表処代表・謝長廷(75)(11)中国発フェイクニュースと外交官の死 - 産経ニュース

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台北駐日経済文化代表処代表・謝長廷(75)(11)中国発フェイクニュースと外交官の死

台風21号の強風に流され、関西国際空港への連絡橋に衝突した大型貨物船 =2018年9月
台風21号の強風に流され、関西国際空港への連絡橋に衝突した大型貨物船 =2018年9月

《3年前、台風の被害をめぐって台湾の駐大阪代表が自殺する痛ましい事件が起きた》

当時61歳で命を絶った蘇啓誠(そ・けいせい)氏は、台北駐大阪経済文化弁事処の処長(台湾の大阪総領事に相当)でした。2018(平成30)年9月14日、事件の第一報を聞いたとき、非常にショックを受けました。私は東京にいて、13日の夜に蘇氏と電話で話したばかりだったからです。蘇氏とは15日に大阪での会議で会う予定でした。蘇氏は対日関係に長年携わってきた優れた外交官。2カ月前に沖縄にある那覇分処処長から異動したばかりでした。

結論から先に言えば、中国発のフェイクニュースに台湾の世論やメディアが振り回され、蘇氏に非難の声が集中したことが背景です。痛ましい事件で、フェイクニュースに対する憤りはいまもなお消えていません。

《どのようなフェイクニュースが中国から流されたか》

(同年9月上旬に)激しい暴風雨を伴った台風21号の影響で、(沖合にある)関西国際空港の連絡橋に大型貨物船が衝突。(往来が難しくなり)旅行客らがターミナルに取り残されるという大事故が起きました。

このとき、中国メディアが「中国の駐大阪総領事館がバス15台を緊急手配して、中国人を優先して救出した」と相次いで報じました。これがフェイクニュースです。関空側が救出措置として、高速船やバスで旅行客らを避難させたのが確認されている事実で、中国のバスは空港には行っていません。

一方、救出を待ちながら関空で孤立していた台湾の旅行客は不安を感じていたし、台湾メディアは中国の大阪総領事館にはできて、なぜ台湾の大阪弁事処は救出に行けないのかと、強硬に批判を繰り返したのです。

《冷静に判断すればフェイクニュースと見抜けたのではないか》

当時はまだ、台湾は中国発のフェイクニュースに対する経験が少なかった。中国側から「中国の救出バスは『自分は中国人だと認識する』ことを条件に台湾人の一部も乗車を許した」とのフェイクニュースまで流れました。(台湾を自国の一部と主張する中国の)微妙な中台問題をついた情報操作でしたね。

台湾の観光団体は台風接近で旅程を変更するなどしたため、関空には台湾の旅行客はあまりいませんでした。避難情報が少ない中で、台湾の旅行客も中国語のフェイクニュースを信じてしまったようです。

《中国側の狙いは何か》

この事件以前、中国人の団体旅行客が海外の空港で、航空便が大幅に遅延したことでロビーに集まり、大声で中国の国歌を歌って空港係員をつるし上げるといった、国際常識では考えにくい問題を起こしたことがありました。そうした問題の再発や国内での反発を懸念したのか、中国は自国民を優先的に救出したとの〝美談〟を作り上げた恐れがあります。サイバー部隊とみられる出所不明の何千件ものネット攻撃が台湾の大阪弁事処に一気に向けられたことも圧力になりましたね。

《事実ではない非難に、蘇氏は耐えられなかったのか》

台湾メディアには、私が蘇氏の責任を追及したなどとするフェイクニュースを流したケースもありました。私は蘇氏の責任と考えておらず、一部のメディアがフェイクニュースに踊らされて非難していただけでした。最後に話した日、蘇氏は「自分を陥れようとしている人がいる」とも訴えていました。大阪弁事処には大量の抗議ファクスも届いていました。顧問弁護士とも相談していましたが、蘇氏を救うことができなかったことは本当に悲しいことです。(聞き手 河崎真澄)