地下を走る光ファイバーは、こうして地上の人間たちの動きを“偵察”する(1/2ページ) - 産経ニュース

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地下を走る光ファイバーは、こうして地上の人間たちの動きを“偵察”する

地下に敷設されている光ファイバーケーブルを用いて地上の振動を検知し、人の動きや交通状況の変化などを把握する技術を米国の研究チームが開発した。その鍵を握るのは、光ファイバーの内部を通るレーザー光の乱反射だ。

TEXT BY MATT SIMONTRANSLATION BY MITSUKO SAEKI

ペンシルベニア州立大学のキャンパスと周辺の大学町であるステートカレッジは、新型コロナウイルスの流行に伴うロックダウンによって静まり返っていた。そんな2020年の春、ある急ごしらえの装置がそっと“聞き耳”をたてていた。地下に張り巡らされた通信用の光ファイバーケーブルを同大学の研究チームが転用し、全長2.5マイル(約4km)にもなる科学的な監視装置のようなものを完成させたのである。

科学者たちがつくったのは、光ファイバーにレーザー光を通すことでケーブルのわずかな変形を検知し、地表から伝わる振動を読み取る装置だった。地下ケーブルの上をクルマや人が通ると、それぞれ特有の地震波のような信号が地面から伝わる。

これにより研究者たちは、現場を監視していなくても街の変化を知ることができた。かつてにぎやかだった場所が突然動きをとめ、ロックダウンの解除とともに徐々に日常を取り戻していく様子をつぶさに知ることができたのである。

光の乱反射を検知

これらの信号からは、例えばロックダウン開始直後の4月にはキャンパスに人の往来がほとんどなくなり、その状態が6月まで続いたことが明らかになった。クルマの通行量は最初のころ一時的に減少したものの、やがて増加に転じ始めた。

「パンデミック以前と比べて人通りはかなり少ないままですが、クルマの通行はほぼ通常に戻っています」と、ペンシルベニア州立大学の地震学者で、学術誌『The Seismic Record』に掲載された今回の調査に関する最新論文の主執筆者である朱鉄源(チュウ・ティエユアン)は言う。「この光ファイバーケーブルは、地震波信号のわずかな違いを判別できるのです」

具体的に言うと、ケーブルが識別しているのは信号の周波数だ。人間の足音は周波数1~5ヘルツの振動を発しているが、走行するクルマの周波数は40~50ヘルツほどである。建設機械の振動になると、一気に100ヘルツを超える。

光ファイバーケーブルは光のパルスを確実に捉え、遠く離れた場所に信号として送る。ところが車や人が地上を通ると、その振動によって信号に乱れや抜けが生じ、少量の光が乱反射しながらファイバー内を逆戻りすることになる。

ペンシルベニア州立大学の研究者チームは、1本の光ファイバーケーブルにレーザー光を通した。光の速度は一定しているので、ケーブル内に散乱した光が戻ってくるまでの時間を測ることで、異なる長さのケーブルが伝える周波数の識別が可能になる。これは地球科学の分野で「分散型音響センシング(DAS)」と呼ばれる手法である。

人の動きもトラッキング可能に

一般的な地震計は、内蔵された部品の物理的な動きを検知して揺れを記録する仕組みで、その1カ所の地面の動きしか測定できない。それがDASの手法を駆使することで、全長2.5マイル(約4km)に及ぶ地下ケーブル沿いの2,000カ所以上、つまり6.5フィート(約2m)に1カ所の割合でサンプルを集めることが可能になった。

これにより調査チームの科学者たちは、地上の動きをこれ以上ないほど細かく解析できるようになった。今回のサンプリングが実施された期間は、ロックダウンが始まった20年3月から、ステートカレッジでさまざまな経済活動が再開された6月までの期間である。

DASはこれらの振動の信号のみを頼りに、さまざまな事実を導き出した。キャンパスの西側では駐車場の新設が進んでいたが、工事が中断された4月には機械を使った活動の気配はまったく確認できなくなった。