【イマドキTV+】30秒でストレスフリーな「ぴったり字幕」 - 産経ニュース

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30秒でストレスフリーな「ぴったり字幕」

テレビをよく見た夏だった。緊急事態宣言のせいで家族旅行はキャンセルしたし、外出も最小限だったし、東京2020オリンピック・パラリンピックがあってほんとによかった。ほとんどお祭り気分で観戦を楽しんだが、たびたび考えさせられることも。レガシー(遺産)というほどでもないけれど、「これから」のヒントになるかも…と感じたことを少し。

オリンピックで印象に残ったのは、スケートボードとスポーツクライミング。スケボー女子パーク決勝、失敗して悔し涙を浮かべる岡本碧優(みすぐ)選手を米豪のライバル選手が担ぎ上げたあのシーン。クライミングは競技前のオブザベーション。ルートが公開されると、出場選手が一緒になってクリアする方法を検討する。新採用された競技が、大切な理念を再認識させてくれた。スポーツで競う相手は、敵じゃなくて仲間、と。

パラリンピックでは、車いすラグビーと車いすバスケットボール。日本チームの健闘もうれしかったが、障害の程度によって設定されるポイント制度の絶妙さに感心。多様な個性を最大限に生かしたチームプレー。その挑戦のまっすぐな延長線上に、私たちが目指している社会の姿が見えてくる。

番組として画期的だと思えたのはNHKの「ユニバーサル放送」。パラリンピックの情報番組「あさナビ」は、生放送なのに放送をわざと30秒遅らせていた。最初は頭が混乱しそうになったが、視聴者が「いま」見ているのは「30秒前」に撮られた映像と音声。その時間差によって「ぴったり字幕」が実現した。生放送は、どうしても映像より字幕が遅れる。でも、30秒あれば字幕が作れるらしく、「あさナビ」ではセリフと同時に字幕が出る。見事なくらい合っていた。

字幕って、かなり便利なものだ。病院の待合室や飲食店内に置かれたテレビが消音されて字幕が流れているのはよくある光景。でもこれまで、画像と字幕はズレるものだった。言葉って、意味が通じればいいというものじゃない。まなざしや表情もコミュニケーションの一部。たとえば、みんなが笑った映像のあとにネタを言われても興ざめだろう。

やむを得ないと思っていたストレスが、こんなに簡単に解消できるとは。一度「ぴったり」の気持ちよさを体験したら戻れない。緊急時の警報などが30秒も遅れたりしたら困るが、普段の放送なら支障もないはず。ユニバーサル放送が常識になる日を待とう。(ライター 篠原知存)