秀吉ゆかりの町の切り札はヘヴィメタとジョジョ - 産経ニュース

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秀吉ゆかりの町の切り札はヘヴィメタとジョジョ

職員採用PR動画のタイトル画面。職員がジョジョ立ちで決めている
職員採用PR動画のタイトル画面。職員がジョジョ立ちで決めている

街の危機を救ったのは、ヘヴィメタルと「ジョジョ」だった。滋賀県北東部に位置する長浜市では、市職員の採用試験受験者が年々減少し、令和元年度はわずか75人に落ち込んだ。優秀な若者の注目をどう集めるか、職員が考えた末の結論は「目立たないと意味がない」。全国初の「ヘヴィメタルと漫画で職員募集」に乗り出し、見事受験者数はV字回復。その軌跡とは-。

「目立たないと意味がない」

長浜市は豊臣秀吉が一国一城の主となった最初の拠点。伝統工芸を結集した豪華な山車や子供歌舞伎が見どころの「長浜曳山まつり」はユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、歴史と文化の薫り高い街だ。しかし、職員採用試験の受験者は減る一方で、令和元年度は平成27年度の152人から半減した。危機感を抱いた市では令和元年夏、若手職員を主体にした部署横断のチームを組み、募集のリーフレットづくりに乗り出した。

リーフレットを制作した際の苦労を語る小川智史係長
リーフレットを制作した際の苦労を語る小川智史係長

リーダーとなったのは人事課の小川智史係長(42)。「目立たせて、手に取ってもらわないと意味がない。インパクトを重視しようと考えた」。従来のリーフレットの写真は職員が普通に立つ姿。「いろんなポーズが欲しい」とメンバーに求めたところ、入庁1年目の高齢福祉介護課の女性職員が「ジョジョ立ちはどうですか」と切り出した。ジョジョ立ちとは、人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」で登場人物たちが取る決めのポーズ。歌舞伎でいう「見得」だ。

普通の人には無理なポーズ
完成した職員募集の「ジョジョ立ち」リーフレット。右上から時計回りに、岸辺露伴、キラークイーン、空条承太郎、ジョセフ・ジョースター、東方仗助、花京院典明-のポーズを再現した
完成した職員募集の「ジョジョ立ち」リーフレット。右上から時計回りに、岸辺露伴、キラークイーン、空条承太郎、ジョセフ・ジョースター、東方仗助、花京院典明-のポーズを再現した

女性職員は「ジョジョ-」のキャラクターのポーズを次々と提案したが、絵としては成立しても、実際に人が再現するのは難しいものも。「特にキャラクターの一人、キラークイーンのポーズは、大きく足を開きながらバランスを取って立つのが難しく、トライアスロンをしていたスポーツマンの男性職員しかできなかった。彼には感謝しています」と小川係長は振り返る。

一方で「若手職員だけの登場では締まりがない」。幹部職員にも出てもらおうと決め、依頼したのは秘書課長の女性と産業観光部次長の男性(いずれも当時)。2人とも「ジョジョ-」を知らず、「軽く難色を示されましたが、撮影に入るとノリノリで『こうか?』『こうか?』とポーズを取ってもらえた」。

並行してユーチューブによる動画での展開も決定。インパクトを重視したヘヴィメタルの楽曲を作り、ボーカルとギター、ベースの演奏まで一人でこなしたのは教育委員会教育総務課の上野賢治主幹(37)だ。

ヘヴィメタルの力
演奏中の上野賢治主幹(左)。仕事中(右)とは別の顔を見せる
演奏中の上野賢治主幹(左)。仕事中(右)とは別の顔を見せる

「中学3年のとき、高校受験の合格祝いで親にエレキギターを買ってもらいました」。人気バンド「X JAPAN」のファンとなり、高校、大学と音楽に熱中。入庁後は市役所の音楽サークルに参加した。

職員としての初めて作曲した楽曲は、「市の健康推進課から『虫歯の予防啓発の歌がほしい』と頼まれ、作りましたよ。タイトルは『お茶でバイバイ! ムシバイキン』。ユーチューブでそこそこ反応を頂いた」。

今回の職員募集の楽曲作成は、同じ音楽サークルにいた小川係長からの依頼だった。「やさしい曲で、とも思ったが、ヘヴィメタルを選びました。公務員という堅い職業との意外性もありますが、やはりインパクトです」と説明。「ヘヴィメタルには、メッセージを伝える訴求力がある」との強い思いがあった。

新作ビデオも…挑戦は続く

完成したユーチューブ用のミュージックビデオ(MV)、「We Want Ones-長浜市役所で働こう-」は、エレキギターの疾走感あふれる演奏と、上野主幹のシャウトで始まるが、市と職員の仕事内容を紹介する歌詞の部分では歌詞を聞き取りやすいポップス調に切り替わる。ジョジョ立ちの職員も登場し、職員の「自由ぶり」を強調。10月末に公開したところ、再生数は約2週間で3万回を超える異例の伸びを見せた。そして令和2年度の職員採用試験受験者は前年比約1・8倍の132人に。見事にV字回復を果たした。

動画はこちらから

小川係長は「斬新なPR動画を見て、こんなことに挑戦できる市役所に勤めたい、と思ってほしかった。結果、長浜市と縁もゆかりもない他県の学生も受験してくれた。動画は全国発信できるのが強み」と話す。

一方、上野主幹は今年4月、新作のMV「長浜市公式ヘヴィメタ・受けよう!特定健診」を制作。「これからも機会があればヘヴィメタルを使った市のPRに携わっていきたい」と意欲的だ。音楽と動画を武器にした「お堅くない市役所」の挑戦は続く。(岡田敏彦)