話の肖像画

謝長廷(10)汚染なき福島県産は「福食」

国民党が台北市内で行った、日本食品の輸入規制緩和に反対するデモ=2016年12月25日(田中靖人撮影)
国民党が台北市内で行った、日本食品の輸入規制緩和に反対するデモ=2016年12月25日(田中靖人撮影)

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《日台関係は深まったが、台湾はいまだに福島県産などの日本食品の輸入を禁じている》


2011(平成23)年3月に起きた東日本大震災での東京電力福島第1原発事故を受けて、台湾でこのとき与党だった国民党の馬英九(ば・えいきゅう)政権が輸入禁止措置をとりました。その後、16年の総統選で再び民進党に政権が交代しましたが、輸入の解禁は残念ながら政治問題化したままです。民進党政権は解禁に前向きでした。しかし18年11月に、野党の国民党が主導した住民投票で禁輸継続が賛成多数になったのです。解禁反対派が福島県産など日本食品に「核食」とレッテルを貼って放射能汚染食材であるかのように、フェイクニュースを流したこともあります。

過去に食用油など食品安全問題が起きたこともあり、恐怖感をあおられた投票で、禁輸継続が賛成多数になってしまいました。さらに昨年、蔡英文政権が米国産豚肉の輸入解禁を決めたことに国民党など野党が猛反発し、立法院(国会に相当)で野党議員がブタの内臓を投げつける混乱まで起きています。


《なぜ解禁反対派はそこまで政治問題にするのか》


私は科学的見地から、正しい食品安全検査を行って決めるべきだと主張してきました。理性的判断が必要で、政治問題化させたままでは日台関係の順調な発展にも影を落とします。ただ一部には、台湾と日本の密接な関係を分断させようとする勢力があることも事実。食品のみならず、新型コロナウイルスで日本政府からのワクチン無償供与や、福島第1原発からの処理水の海洋放出をめぐっても、強烈な批判が繰り返されましたね。

台湾も日本も安全と安心が第一で、その基準のクリアは当然です。しかし、政治目的で日台分断を図る動きがあるとすれば危険です。科学的根拠が希薄なまま批判する勢力をもっと警戒しないと、日本に対する姿勢で中国と同じ立場に陥ってしまうからです。中国の対日戦略に乗っているのかもしれません。


《解禁に前向きな民進党政権はこの先、どう動くのか》


18年の住民投票の結果を守らなければならない期限は経過しており、見直しを進めています。震災発生直後、世界で50を超える国と地域が福島県産などの食品輸入を禁じましたが、10年が経過した今、まだ禁輸を続けているのは中国と香港、マカオ、韓国などわずかで、その中に台湾が含まれています。

私は東京・白金台の台北駐日経済文化代表処のすぐ近くにあるスーパーで、福島県産の野菜などをみつけては購入して食べています。産地がラベルで分かる写真をソーシャルメディアに投稿したこともあります。

解禁反対派がなおも主張している「核食」ではなく、放射能汚染なき福島県産の食品は「福食」だと私は訴えています。台湾では春節(旧正月)の飾りなどで、「福」という文字をよく使います。「福が来る」ことを、誰もが心待ちにしています。もちろん人々の健康が最優先ですが、理性的な正しい判断が重要です。政治的な困難を乗り越えて解決を急ぎます。


《巨額の義援金を送ってくれた台湾が、なぜ禁輸を続けるのか、首をかしげる人も多い》


科学的根拠に基づかない感情的な輸入解禁反対論は、東北の被災者の方々の心情を傷つけることにもなります。日台が震災など自然災害のたびに、互いに支援をしてきた「善の循環」がしっかりと回るよう、私も全力を尽くしていくつもりです。(聞き手 河崎真澄)

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