次期衆院選では、引退するベテラン議員の後継として親族が出馬する「世襲」が目立つ。自民党の山口泰明選対委員長(72)の後継として埼玉10区に立候補する次男の晋(すすむ)氏(38)もその一人だ。世襲を否定的にとらえる世論、「代替わり」に伴って離れる一部支援者…。さまざまなハードルに向き合いながら、立憲民主党元職の坂本祐之輔氏(66)との議席争いに臨む。
埼玉県川越市のホテルで先月開かれた晋氏の選挙区支部長就任記者会見。同席した自民党の柴山昌彦幹事長代理(県連会長)は、世襲に対する懐疑的な見方を念頭にこう期待を込めた。
「批判があることは十分予想しているが、払拭するパワーと行動力を持って行動してほしい」
また、公募に名乗りをあげた24人の中から「厳正な審査」で晋氏が選ばれたと重ねて説明し、「地元にかける熱意やプレゼンテーション能力などの観点から、『2世』ということを超越して候補者としてふさわしい」と強調した。
世襲に対しては、政治の「家業」化によって多様な人材の参入が妨げられるとの批判が絶えない。一方、堅固な支援組織に支えられ優位に戦うことができるというメリットは無視できず、与野党ともに脱世襲を積極的に掲げようという機運は乏しい。
非世襲で「たたき上げ」を自認する菅義偉首相(自民党総裁)も世襲を事実上容認している。自民党は次期衆院選で晋氏のほか、愛媛1区で塩崎恭久元官房長官(70)の長男の彰久氏(45)を、三重2区で川崎二郎元厚生労働相(73)=比例東海=の長男の秀人氏(39)をそれぞれ擁立する。
泰明氏は菅氏に近いことで知られ、晋氏は、官房長官時代の菅氏のもとで秘書官に就いた経験を持つ。現在は泰明氏の秘書を務めている。
当選7回を誇る泰明氏の地盤を引き継ぐとはいえ、決して楽な選挙ではない。
晋氏に対し「世話になったのは泰明さんだから」と露骨に距離感を示す支援者もいる。晋氏は「そういう人を引き止めるのは難しい」と明かし、「旧来の方はもちろん、新規の方を仲間にしながらしっかり考えを伝えていきたい」と自身に言い聞かせるように語る。
埼玉10区は晋氏と坂本氏の一騎打ちとなる公算が大きい。
坂本氏は埼玉県東松山市長を4期、衆院議員を2期務めた。とりわけ、選挙区内の大票田である東松山市の首長の経験は大きなアドバンテージだ。実際、泰明氏が坂本氏に勝利した平成29年の衆院選でも、東松山市に限ると坂本氏が泰明氏を2千票以上リードした。
坂本氏周辺は、30歳近く年下の晋氏との対決に「有権者の『若さ』への期待感を感じる面もある」と警戒感をにじませ、政治経験の豊富さを広くアピールしていく構えだ。
晋氏に近い自民党関係者は「新しい風への期待があり、支援者の受けはいい。秘書として首長らと接してきた経験もある」と語り、こう続けた。
「世襲であるかどうかより、納得してもらえるかどうかだ」(兼松康)