北朝鮮は建国記念日の9日、平壌で軍事パレードを行った。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の中でも昨年10月からこれまでに3度の軍事パレードを繰り返し、軍事的動員力を誇示してみせた。ただ、今回は新型戦略兵器は登場せず、米国などに向けた軍事的挑発より内部結束に注力せざるを得ない実情も浮き彫りにした。
朝鮮労働党機関紙、労働新聞によると、パレードは9日午前0時に合わせて始まった。昨年10月も午前0時開始。今年1月の党大会後のパレードも夜間に行われており、ライトアップで隊列を闇夜に浮かび上がらせる劇的な演出効果を狙ったようだ。
ただ、隊列の中身は過去2回と違っていた。目についたのがオレンジ色の防護服に防毒マスクを着けた「非常防疫縦隊」。新型コロナへの即応力をアピールするものだ。そのほか、サイドカー付きバイクの隊列に多連装ロケットなどを牽引(けんいん)したトラクターの部隊。最近のパレードで見慣れていた弾道ミサイルなど戦略兵器は一切紹介されず、異色のパレードに映った。
平壌郊外の飛行場でパレードを予行演習する様子が衛星写真で捉えられたのは8月末ごろ。準備に通常1~2カ月かけることから、今月の建国記念日に本番を迎えるには練習期間が短すぎるとみられていた。北朝鮮は今回、いわば〝即席パレード〟を強行した形だ。
朝鮮人民軍の正規部隊ではなく、民兵組織の「労農赤衛軍」と治安を担当する「社会安全軍」がパレードの中核を担った。労農赤衛軍は17~60歳の男性と未婚女性の労働者や農民らで構成された予備軍組織だが、規模は人口の約4分の1の570万人に上るという。
正規軍以外でも有事には即座に無数の予備軍を動員できる態勢を内外に見せつけたといえる。北朝鮮は都市の若者を地方の過酷な生産現場に多数送り出す事業も進めている。対北情報筋は、コロナ禍に伴う経済難で住民の不満が高まる中、「住民らを次々に動員して疲弊させ、体制批判を考えるいとまを与えない目的もある」との見方を示した。
北朝鮮は8月の米韓合同軍事演習に強く反発したことから、日米韓当局は、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試射などの軍事的対抗措置を警戒してきた。だが、経済難の打開に集中せざるを得ない金正恩(キム・ジョンウン)政権としては、米国を無駄に刺激するのは得策でないと判断している可能性もある。(ソウル 桜井紀雄)