【Dr・金のとちぎカルテ】地中・地下水熱利用㊦ ヒートポンプ、栃木県でも普及を - 産経ニュース

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Dr・金のとちぎカルテ

地中・地下水熱利用㊦ ヒートポンプ、栃木県でも普及を

地球温暖化は至るところで実感される。1960年代、筆者が小学生のころは、夏の日に30度を超えれば猛暑であった。いまは数度高いのは普通、35度以上も珍しくない。

世界中で氷河や海洋の氷の融解、また、さらに温暖化を加速するツンドラのメタンガス湧出など、おそろしいことが起こりつつある。気候変動を否定する論者や政治家が多かった米国では、皮肉なことに大規模な山火事がカリフォルニア州からフロリダ州まで全国で頻繁に起きている。また、最近も強烈なハリケーンが再びルイジアナ州と東部諸州を襲って多くの人が避難を余儀なくされ死者も多く出た。化石燃料からの離脱の必要性は、いまや世界的に共通の認識であろう。

豊富な地下水

宇都宮の市街地でも化石燃料の消費を減らせる手段として、地中熱・地下水熱を利用した地下熱交換があることは、前回7月1日付紙面で紹介した。興味を持たれる方も多いので、少々詳しく述べる。

地表から地下数十メートルまで掘って、上下に通したパイプ(採熱管)に液体を循環させると、地盤の温度に近い温度で上がってくる。外気の温度と、循環液との温度差があれば、ヒートポンプを介して、さらに冷やすことも暖めることもできて、冷暖房に利用できる。循環液が地下水とも熱交換すれば、効率がさらに高まる。

JR宇都宮駅東口「宮みらい」で建設中の高度専門病院「シンフォニー病院」では、地中熱交換システムを利用した冷暖房システムを構築している。建設に先だっての調査で、現地の地層が地下水を多く含み、地中熱交換に有効な条件がそろっていることが確認された。

市内を流れる鬼怒川の川底は、田川などと比べて低く、伏流水を通す砂礫(されき)層が緩やかな勾配で東に向かって降りていて(地層図)、地下水が西から東に豊富に流れている。現地のボーリング調査では、豊富な地下水の流れと量を確認しており、また複数カ所で熱の拡散を測定したところ、冷暖房の高い効果を予測できた。計算では、夏の冷房のエネルギーの7割程度、冬の暖房の6割程度を賄うことができる。

シンフォニー病院では、出力300キロワット級のヒートポンプを採用しており、このような大規模な事例は全国的に少ない。しかも、豊富な地下水を生かした、オープンループ方式(地下水)とクローズド方式(地盤からのU字採熱管)を複合した地中熱システムは先例が少なく、環境省からも先進性を評価され、補助事業に採択された。

宇都宮に先駆的企業

ヒートポンプを活用した地中熱交換システムは、気候や地域に左右されない安定したクリーンエネルギーといえる。環境省が令和2年度に実施した調査によると、元年度末までの地中熱ヒートポンプシステムの設置件数は計2993件。都道府県別でみると、北海道、秋田県、長野県、東京都などで多いが、大部分は戸建て住宅など小規模設備である。規模の大きいシステムは地中に熱交換器を設置する必要があり、国内では事例が少ない。当病院では敷地に対して最大限に地中熱を利用しようと、当初から建築設計に組み込んだ計画がなされた。

栃木県では件数は多くないが、われわれのシステムを設計施工しているクラフトワークは、地中熱交換設備の先駆的な企業であり、宇都宮市に本社がある。平成15年ごろから地中熱ヒートポンプのシステム事業に着手し、さまざまな未利用エネルギーを熱利用したシステムを独自で開発。施工実績は200件以上に及び、直近では、仙台市に来春オープンする農園、温泉、レストランの複合施設で地中熱、温泉廃熱、ボイラー廃熱を組み合わせた大規模システムを設計施工した。また地元でも温泉の熱を利用した宿泊施設の熱交換設備、大谷の地下水を利用した夏イチゴのハウス栽培の冷暖房の施工例などが良く知られている。地中熱交換は、宇都宮市の地理条件とも合わせて、栃木県でもっと普及されてよい技術と考える。(脳神経外科医 金彪)