「これは、ただ事ではない」。令和元年10月13日朝、台風19号の豪雨で阿武隈川が氾濫、甚大な被害が出た福島県本宮市。住宅街にあふれた水は1階の屋根まで達していた。災害派遣要請を受け、第44普通科連隊(福島市)の20人の部隊を率いる小隊長として現地入りし、目にした光景は想像をはるかに超えていた。
現場は自宅がある同県郡山市に近い「隣町」。休日に家族と出かけた、なじみ深い公園も水没していた。自宅の2階に逃れ、ベランダから助けを求める人が、そこかしこにいた。
「一刻も早く助けてあげたい」。ボートで浸水した家を1軒ずつ回り91人を救助した。活動は17日間に及び、行方不明者を遺体で発見したこともあった。「助けた人の『ありがとう』という言葉が頑張るエネルギーになった」と振り返る。
自衛隊に入ろうと決めたのは高校生の頃。「自衛官の叔父がいて仕事の話を聞くのが好きだった。たくましくて小さい頃からの憧れだった」。「人のためになる職業に就きたい」と考えたとき、真っ先に浮かんだ仕事だった。
「部隊を指揮するのに必要なのは信頼関係。曖昧な指示は駄目。明確な目標を与えることが大事」と話す目に、自信があふれる。
東日本大震災では宮城県石巻市で行方不明者の捜索に当たるなど、発生から3週間家を空けた。「家を守ってくれる妻に感謝している。大変なときにいつもいないので、夫としては60点かな…」。こう話すときは、少し自信なさそうだった。
(芹沢伸生)
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