【ビブリオエッセー】ポストコロナへの心構え 「下山の思想」五木寛之(幻冬舎新書) - 産経ニュース

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ポストコロナへの心構え 「下山の思想」五木寛之(幻冬舎新書)

昨年来、新型コロナの猛威は幾度もの波を繰り返してきた。今も緊急事態宣言の日常が続き、世界規模で自由な往来が規制されている。外国人観光客の姿が消えて久しい。しばらくはこのままでよいとか早くインバウンドの再開をとか、様々な声が聞こえてくる。

『下山の思想』は2011年、東日本大震災の少し後に出版された。五木さんは、経済を膨らませ、再び経済大国をめざすことが将来の展望ではないと説く。山頂に至れば必ず下山があるように、日本は緩やかな下山の道をたどるときが来たのだと。身の丈に合った幸福を実感できる社会が成熟した国家に求められている。

予言の書とでもいうべきか。世界同時の新型コロナ恐慌によって、山を転がり落ちるかのように景気は大幅に後退した。今はワクチン普及の見通しが立ち、治療薬の開発も進む中で日経平均株価は一時、3万円の大台を回復しているが楽観はできない。国の将来に関わる総裁選があり、衆院総選挙も迫っている。

さてポストコロナのシナリオは。再びインバウンド需要に大きく依存する経済に戻るというのもどこか寂しい。私はかつての外国人観光客でひしめく町や鉄道を懐かしいとは思わない。京都では観光公害も問題になった。もちろん経済の回復は大きなテーマだが、その先に経済力だけに頼らない豊かな社会の実現、というのは絵空事なのだろうか。

本書には具体的な構想が描かれているわけではないが下山はマイナスではなく撤退でもないという。「山は下りてこそ、次の山頂をめざすことができる」のだ。ただし登山事故は下山のときが圧倒的に多いという。足元を見つめ、気を引き締めて下山の道を歩むときなのだろう。

大阪府八尾市 松村翔太(34)

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