「街は静かだ。それは、みんな次に何が起きるか分からずおびえ、息をひそめているからだ」。取材に応じたアフガニスタンの首都カブールに住む50代男性は市内の様子をこう話した。

イスラム原理主義勢力タリバンが政府軍への攻勢を強めた7月以降、シンガポールから現地に〝リモート取材〟を続けているが、市民の絶望感の高まりをひしひしと感じる。

最大の原因は旧タリバン政権が繰り広げた恐怖政治復活への懸念だろう。タリバンは融和路線を打ち出しているが、額面通りに受け取る市民は少ない。報道官らはたびたび女性の権利保護や人権擁護などを推進する姿勢を示しているが、「イスラム法に基づいて」という前置きを必ず付けている。イスラム法の解釈を行うのはタリバン自身だ。

冒頭の男性はフェイスブックへの投稿をすべて消去した。タリバンを刺激するような発信はしていないが、言いがかりを付けられる可能性があるという。取材に応じたのも匿名が条件だ。「これから訪れる暗い時代に備えなくてはならない」と男性は話した。

タリバンはかつて苛烈な弾圧を主導した「勧善懲悪省」の復活を宣言した。「暗い時代」はすぐそこまで来ている。国際社会は絶望する市民に対して何ができるのか、真剣に考えていく必要がある。(森浩)

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