自民党総裁選は岸田文雄前政調会長と高市早苗前総務相が8日、記者会見を開いて経済政策を発表し、日本経済の再浮揚に向けた論戦が本格化した。市場原理を重視する新自由主義からの決別を訴える岸田氏に対し、高市氏は安倍晋三前政権の経済政策「アベノミクス」の深掘りを主張。海外に比べて持ち直しが遅れた国内景気の早期回復と、新型コロナウイルス禍で拡大した格差の縮小を両立できるかが課題になりそうだ。
岸田、高市両氏とも金融緩和、財政政策、成長戦略を通じて景気回復を目指すアベノミクスの「三本の矢」を継承する。違いはその上での政策の在り方だ。
「小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換する」と表明した岸田氏は、アベノミクスの欠点を補うため歴代の自民党政権が重視してきた構造改革路線に一定の距離を置いた。市場原理を重視し政府の関与を減らす政策のもと、日本でも富の集中が進み格差が広がったとの問題意識がある。
岸田氏はこれまでも富裕層に有利な金融緩和による株高や、低所得層を支える最低賃金引き上げといった労働政策の恩恵を受けられない中間層に対し、所得再分配の強化が必要と主張してきた。子育て世帯の教育費や住居費を支援することで、中間層の拡大と少子化解決を目指す。
一方、高市氏は安倍政権が掲げ達成できていない2%の物価上昇率目標を実現するため、三本の矢を一層強化する構え。政策的経費を借金に頼らず税収などで賄えているかを示す「プライマリーバランス」を令和7年度に黒字化する政府目標を凍結。「戦略的な財政出動」を拡大することで景気浮揚を目指す考えだ。「財政健全化の旗を堅持する」と表明した岸田氏の姿勢とは一線を画している。
格差是正では、年間50万円以上の金融所得に課す税率を20%から30%に引き上げる〝富裕層増税〟を掲げており、市場にはマイナス材料になる可能性がある。
米国で新自由主義のトランプ政権が再分配を重視したバイデン政権に交代するなど、コロナ禍を契機に格差是正は世界的な潮流になりつつある。新自由主義の傾向が強かった菅義偉政権も国民の支持を失い短命に終わった。次期政権は間近に迫る衆院解散・総選挙に向けて鬱積した不満を払拭し、景気回復への道筋を早期に示す必要に迫られており、経済分野での政策の打ち出し方がこれまで以上に重要になっている。(田辺裕晶)