IR汚職事件で、衆院議員の秋元司被告と元政策秘書の豊嶋晃弘被告に対する東京地裁判決の要旨は次の通り。
【罪となるべき事実】
内閣府副大臣などを務めていた秋元被告は豊嶋被告と共謀し、平成29年9月1日、中国企業「500ドットコム」側から200万円の振込入金を、同月28日に議員会館事務所で現金300万円の供与を受けた。同年12月と30年2月には、マカオなどへの旅行の招待で計約258万円相当の利益供与を受けた。
秋元被告はこの収賄事件に関し、噓の証言をする報酬として、共犯者と共謀し令和2年6~7月、那覇市のホテルなどで贈賄側に現金計3500万円の提供を持ち掛けた。
【300万円の授受】
「500」社は平成29年の衆院解散時に国会議員への現金供与を計画。元顧問2人(いずれも贈賄罪で有罪確定)が具体的なやりとりをし、「秋さん5 抜き200」(2人が200万円を中抜きし、秋元被告に300万円を供与する意)などのメッセージを残していた。2人の供述は客観証拠や状況と整合し、核心部分が合致している。
弁護人は、犯行時間帯に秋元被告は議員会館に行っていないと主張。事務所の日程表、スマートフォンのヘルスケアアプリのデータを根拠としている。しかし日程表は行動記録ではなく、記載漏れの可能性もある。アプリは正確性の程度が不明で、当日のデータも秋元被告の動静を正しく反映していない。結論には影響しない。
【証人買収】
秋元被告が犯行を主導したという共犯者らの供述は客観証拠に裏付けられ、関係者の供述とも符合する。秋元被告が買収資金1千万円を用意したという点は、現金の帯封からの指紋検出による裏付けもある。
【200万円の入金】
秋元被告の講演料は副大臣就任祝いの趣旨で50万円から200万円に顕著な増額がされており、賄賂性は明らかだ。
【マカオ旅行など】
無償接待という「500」社側の意図を容易に推察でき、旅行の内容もぜいたくぶりが際立つ。豊嶋被告は秋元被告の了承を得て、旅行直前に後援会口座から128万円を引き出して代金支払いの仮装を図った。
【量刑の理由】
秋元被告は計500万円の供与を受けた上で、旅行で至れり尽くせりの接待を受けた。IR事業を所管する中央官庁の要職にありながら特定の企業と癒着し、社会一般の信頼を大きく損なった。
もっとも秋元被告はことさらに賄賂を要求しておらず、収賄に限れば執行猶予の余地が残されていた。しかし保釈直後から贈賄側の買収という前代未聞の司法妨害に及び、その道も閉ざされた。証人買収は収賄事件の結論を根本から覆す危険性さえあった。公人としての倫理観はおろか、最低限の順法精神すら欠如している。実刑を免れないことはもとより、刑期も相応の長期に及ばざるを得ない。