【光を撮る】未来を切り拓くレーザー光 - 産経ニュース

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光を撮る

未来を切り拓くレーザー光

世界トップクラスの高強度を誇るレーザーを生み出す「J-KAREN-P」。約400枚のレンズや鏡などを通して光を強めている=京都府木津川市
世界トップクラスの高強度を誇るレーザーを生み出す「J-KAREN-P」。約400枚のレンズや鏡などを通して光を強めている=京都府木津川市

「レーザー入射中」。研究室の警告灯がぐるぐる回った。すぐに目の前を緑の閃光(せんこう)が走り、薄暗い室内が照らされた。量子科学技術研究開発機構の関西光科学研究所(京都府木津川市)にある世界トップクラスのレーザー実験装置「J―KAREN―P」。高強度レーザーを使い、医療、工学分野に応用する研究を進める。そこには「光」の最先端研究で、未来を照らそうとする人たちがいた。

研究員が複数のモニターを確認しながら世界トップクラスの高強度を誇るレーザーを制御している
研究員が複数のモニターを確認しながら世界トップクラスの高強度を誇るレーザーを制御している

研究室を照らした緑の光は実は〝主役〟ではない。出力されるレーザーは赤外線で、人間の目では覚知できない。周囲に漏れる緑の光は励起(れいき)光と呼ばれ、赤外線にエネルギーを与え強度を高めるために使われる。

世界トップクラスの高強度レーザーを生み出す「J-KAREN-P」。出力された光にエネルギーを加えるための励起光が緑色の輝きを放った
世界トップクラスの高強度レーザーを生み出す「J-KAREN-P」。出力された光にエネルギーを加えるための励起光が緑色の輝きを放った

装置では、一筋のレーザーが励起光に包まれた約100メートルの走路で増幅され、100億倍の強度で出力される。増幅のため走路に約400枚のレンズや鏡、赤色の人工結晶「チタンサファイア」などが配置され、100兆分の3秒で1000兆ワットの高強度になる。

テニスコートほどの面積を持つ「J-KAREN-P」。研究者は白い防塵服を着用し、光を直接見ないための保護メガネをつけている
テニスコートほどの面積を持つ「J-KAREN-P」。研究者は白い防塵服を着用し、光を直接見ないための保護メガネをつけている

このレーザーを使い、巨大な装置が普及の足枷(あしかせ)になっている、重粒子線がん治療装置の小型化などに取り組んでいる。

研究を社会に生かすことを「社会実装」という。画期的な新発見であっても実際に利用するには、新たな装置や技術を開発する必要がある。研究所で進める「レーザー打音検査装置」も、その一つだ。

コンクリートの欠陥を調べるため照射されたレーザーの軌道。表面に振動を起こす白色のレーザーと解析用の緑色のレーザーの2種類が使われる(9枚を比較明合成)
コンクリートの欠陥を調べるため照射されたレーザーの軌道。表面に振動を起こす白色のレーザーと解析用の緑色のレーザーの2種類が使われる(9枚を比較明合成)

現在、トンネルなどの構造物のコンクリート劣化点検は、技術者の目視やハンマーによる打音検査が主流だ。研究所は、これを効率化、精緻化するため、コンクリート表面に強いレーザーを当てて振動させ、別のレーザー照射で異常を検知する装置を開発した。

指に光を当てるだけで血糖値を測定できる技術も生まれた。今は糖尿病患者が自身で指に針を刺し採血しているが、痛みを取り除き、負担を減らせる。

指に光をあてて血糖値を測定するライトタッチテクノロジー社の機器。研究員が設立したベンチャー企業が開発を進めている
指に光をあてて血糖値を測定するライトタッチテクノロジー社の機器。研究員が設立したベンチャー企業が開発を進めている

新型コロナウイルス対策への貢献も試みる。レーザーを使って空気中のウイルスの検出が可能かの実験を7月からはじめた。

研究を統括する神門(かんど)正城次長(52)は「科学の力で社会を豊かにし、課題解決のための道を切り開きたい」と語った。

レーザーを照射するためのレンズを調整する研究員
レーザーを照射するためのレンズを調整する研究員

「困っている人の力になりたい」。取材で出会った研究者たちは、そう口をそろえた。これから、さまざまな分野で、目には見えないレーザーが、私たちの未来を切り開く。だが、それを支えるのは、研究者をはじめとする人々の熱意なのだと、確信した。

約400枚のレンズや鏡などを通して光を強めている
約400枚のレンズや鏡などを通して光を強めている

(写真報道局 渡辺恭晃)