北朝鮮の2代目最高権力者(総書記)、金正日(キム・ジョンイル)が韓国の女性歌手、キム・ヨンジャを平壌に招いての訪朝公演を望んでいる…。
そのことを当時、日本を拠点に活動していたヨンジャ側に伝えたのは、韓国文化観光相(当時)、朴智元(パク・チウォン)である。2000年6月、金正日と金大中(キム・デジュン)(同韓国大統領)による南北首脳会談が平壌で行われ、融和ムードが高まったときのことだ。金正日はヨンジャの大ファンでテープをたくさん持っており、20年も前からよく聴いていたという。訪朝時にそのことを聞いた朴は早速、動いた。別件で来日中に、ヨンジャを自ら説得し、金正日に「恩を売りたい」といった思惑もあったのだろう。
だが、ヨンジャ側は困惑した。南北間の「政治」にかかわることは避けたい。〝南北融和の使者〟などという位置づけになれば、煩わしい問題も出てくる。そして、何よりも、別ルートで訪朝公演の話が進んでいたからだ。