存立の危機
八女市は、福岡県南部に位置する人口約6万人の地方都市で、県内有数の農産物の産地でもある。八女茶の産地として知られるが、人口は減少の一途をたどり、消費の縮小で事業者の経営環境は厳しさを増す。
「これまでのやり方ではだめだ。滞在型の宿泊施設をつくり、交流人口を増やそう」
平成28年、同商議所の山口隆一会頭(71)は、こうした危機感から動き出した。
同商議所では農産品振興に力を入れてきたが、経済効果は十分に出なかった。消費の減少を食い止めなければ、事業者は存立の基盤を失う。観光消費で経済を循環させようと、滞在型観光の可能性を探った。
30年に兵庫県丹波篠山市の古民家再生事業を視察したのが転機となった。複数の古民家をホテルやレストランなどに改修し、街全体を観光資源にする取り組みで地域活性化に寄与している。
「これなら八女でもやれる」。山口氏は確信した。八女の中心部にある福島地区は、江戸時代から昭和期に建てられた白壁の町家が残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。地区内の230棟の町家などに加え、提灯(ちょうちん)や仏壇といった伝統産業もある。地域資源を活用し、誘客につなげようと、丹波篠山市で事業を進めた「NOTE」(同市)を交えて、ホテル事業の検討がスタートした。