【一筆多論】失敗に憲法以外の理由あり 榊原智 - 産経ニュース

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一筆多論

失敗に憲法以外の理由あり 榊原智

アフガニスタン退避任務で派遣されるC-2輸送機を見つめる航空自衛隊員ら=8月23日、航空自衛隊入間基地(川口良介撮影)
アフガニスタン退避任務で派遣されるC-2輸送機を見つめる航空自衛隊員ら=8月23日、航空自衛隊入間基地(川口良介撮影)

500人も置き去りにした現在進行形の問題だが、自衛隊機を派遣した日本人・アフガン人協力者退避作戦の失敗は、政局にかまけて忘れていい話ではない。

助け出さなくては人道と信義が問われる。同時に、政府は教訓を早めに洗い出し、態勢を立て直してもらいたい。それなくして、台湾有事や朝鮮半島有事に対応する前提となる非戦闘員退避活動(NEO)を実施できるのかも疑わしい。

カブール陥落時の日本大使不在や、その後、アフガン人職員を見捨て日本人大使館員だけが国外脱出した件は外務省の失態だが、結果的に自衛隊機派遣の正式決定がカブール陥落から8日後と遅れたのは、もっと問題である。陥落前後に自衛隊機派遣を唱えなかったのを反省しつつ記すが、政府には準備していた民間機による退避ができなくなる場合に備え、自衛隊の派遣も並行して本格準備しておく用心深さがほしかった。

米国も情勢判断や対応を誤る。日本も独自に情勢を分析して打つべき手を打たなくては痛い目にあう。北大西洋条約機構(NATO)として軍を派遣していた欧州各国より日本は不利だったかもしれないが、インドネシアなど非NATOの国も退避を成功させた。

日本にとって北東アジア以外の地で、NEOが最もあり得るのはアフガンだったはずだ。国家安全保障局(NSS)や外務・防衛両省の情勢分析と対応に踏み込みが足りなかったのは深刻といえる。菅義偉首相や加藤勝信官房長官、茂木敏充外相ら政治家の感度も鈍かった。

フランスは5月から退避活動をしていた。日本政府にも、世界中のさまざまなルートでアフガン情報が集まっていたはずなのに生かせなかった。

派遣任務に就いた自衛隊員の労苦には心から感謝したい。一方で、作戦の在り方には議論の余地がある。

政府が失敗の言い訳に憲法や自衛隊法ばかりを挙げるなら無責任である。

普通の民主主義国の軍隊は自衛権で動けるが、自衛隊は憲法で外国での武力行使が禁じられている。確かに、自衛隊に世界標準の権限があればもっと準備や覚悟がしやすかったはずだ。

自衛隊法第84条の4「在外邦人等の輸送」は、「安全な実施」を条件にしている。政府はそれを理由に自衛隊の活動を空港内に限った。その結果が「バスで空港まで来て」という残念な話だった。危ないから自衛隊が派遣されるのに、おかしな話ではないか。

情報収集でヘリを市内に飛ばして着陸させ、自衛隊の管理下に入ったとみなして退避する人々を空港まで運ぶことは、法的にぎりぎり可能だったはずだ。イラク派遣時も想定されていた知恵である。

これを採らなかったのは、NSSや外務、防衛両省がカブール陥落以前から進めておくべき準備が不足していたことと、政治の意思決定自体の遅れにある。

自衛隊の「邦人等の輸送」に今回反対したのは共産党くらいで、世論は確実に変わってきている。政府の準備不足による派遣決定の遅れから、自衛隊法の杓子(しゃくし)定規な運用にとどまって今回失敗したが、台湾有事などでは失敗はなおさら許されない。NSSや外務、防衛両省は、もっと働く気構えで準備をしてほしい。実際にどこまでやるかは、政治家が責任を負う話である。(論説副委員長)