「前代未聞の司法妨害」IR汚職実刑判決で地裁、秋元被告の全主張を否定

IR汚職事件の判決で、弁護団とともに東京地裁に入る秋元司被告(手前)=7日午前(代表撮影)
IR汚職事件の判決で、弁護団とともに東京地裁に入る秋元司被告(手前)=7日午前(代表撮影)

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件で7日、衆院議員の秋元司被告(49)に懲役4年の実刑判決が言い渡された。東京地裁は、供述と客観証拠の整合性が取れていることなどを理由に、検察側の主張を全面的に認定。証人買収という行為が、自ら執行猶予となる可能性を閉ざしたと突き放した。

この日、グレーのスーツに白いワイシャツ、イメージカラーの緑がかった水色のネクタイを身に着け、マスク姿で出廷した秋元被告。左胸に議員バッジを着け、証言台の前に立った。丹羽敏彦裁判長が主文を言い渡すと、弁護人の隣に着席。腕を組み、前を見据えて判決理由に聞き入った。

公判では、平成29年9月の衆院解散当日、東京・永田町にある議員会館の秋元被告の事務所で、現金300万円を受け取ったかどうかが最大の争点となった。

弁護側は、現金を受領したとされる午後1時半ごろには「議員会館にいなかった」と主張。だが地裁は、贈賄側の中国企業「500ドットコム」の元顧問2人の供述を採用。根拠となったのは、2人が交わした生々しい「メッセージ」だった。2人は、現金500万円のうち秋元被告に300万円を渡し、200万円は中抜きすることを意味する「秋さん5 抜き200」などの文言をやり取りしており、これらの客観証拠が供述と「合致している」と認定された。

また弁護側は、現場にいなかった証拠として、事務所の日程表や秋元被告のスマートフォンにある「ヘルスケアアプリ」のデータを提出したが、判決では日程表について「行動記録ではない」、アプリについては「正確性の程度が不明」とし、いずれも証明力に乏しいとして退けられた。

一方、丹羽裁判長は「殊更に賄賂を要求したわけではなく、贈賄側のIR事業参入に特段の成果をもたらした形跡もない」とし、仮に収賄罪だけなら執行猶予判決となる余地が残されていたと言及した。

しかし、収賄罪で起訴後に保釈された秋元被告が、保釈条件に違反して贈賄側と接触し、報酬の提供と引き換えに供述を覆すよう依頼するという「前代未聞の司法妨害」を行ったことで「その道も閉ざされた」と非難。実刑どころか、刑期も「相応の長期に及ばざるを得ない」と断じた。

全ての主張を否定された秋元被告。裁判長の厳しい言葉の数々にも最後まで表情を変えることなく、法廷を後にした。

国会議員の収賄事件をめぐり1審で有罪判決が下されるのは、あっせん収賄罪や受託収賄罪などで起訴され、平成16年に実刑判決を受けた現参院議員の鈴木宗男氏以来、17年ぶり。検察幹部は「今回の判決が、政界が襟を正す契機になれば」と話している。

7日の判決で東京地裁は検察側の主張を全面的に認め、IR事業を所管する中央官庁の要職にあった秋元司被告が特定企業と癒着し「社会一般の信頼を大きく損なった」とした。

秋元被告の逮捕以降、東京地検特捜部は、次々と国会議員の「政治とカネ」に切り込んだ。参院選に絡む公選法違反事件で昨年、元法相の河井克行被告=1審で実刑判決、控訴中=と妻の案里元参院議員=有罪確定=を逮捕、起訴。今年に入り、鶏卵業者から現金を受け取ったとして収賄罪で元農林水産相の吉川貴盛被告を在宅起訴し、有権者に現金を提供するなどした公選法違反罪で菅原一秀前経済産業相を略式起訴した。

「事件がなかったから、それだけ大胆になっていったのだろう」。ある検察幹部は、長らく国会議員の汚職事件捜査の着手がなかったことによる「緩み」が、相次ぐ国会議員に絡む事件の背景にある可能性を指摘した。

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