【ビブリオエッセー】「あこがれ」を言葉に 「小泉周二詩集(現代児童文学詩人文庫)」(いしずえ) - 産経ニュース

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「あこがれ」を言葉に 「小泉周二詩集(現代児童文学詩人文庫)」(いしずえ)

小泉周二はかつての茨城県那珂湊市(現ひたちなか市)で生まれ育った詩人だ。港町なので海や豊かな自然をうたった詩が多い。

「海とおれ」という詩は「ずうっと前は海っちゃ好きだなかった/せめてくるみてえで/ちゃぶされそうで/おっかなくなって逃げてきた」と始まる。このあと詩人は心変わりを語り、やっぱり海は「すげえなあ」と思い直し、「カミサマ」と叫ぶのだ。「もう死んでもいいみてえな気がして/ずうっとそうやって波の音聞いてる」と終わる。私も故郷の海を前にすると似たような気持ちになる。

全体を読んで思い浮かぶのは「あこがれ」という言葉だ。詩人はいろんなものに憧れて心を飛ばし、怒っても泣いても明日に希望を持って生きる。「遠いものにあこがれる人へ」という詩では「僕はここにいるよ」と繰り返す。遠くに憧れながら足元の幸せを大切にしている。

「少年詩」という分野になるらしい。どの作品も素朴な少年の姿が目に浮かぶ。紹介には1950年生まれとあった。いくつになっても心は少年のまま草花を愛で、自然を感じて心を躍らせ、人生を楽しんできたのだろう。

視覚障害があるため「すみませんと/ありがとうを/くりかえしながら/旅をする」と書いているが、「白い杖をふりふり歩いていたら」と始まる詩では腕をかしてくれた女の子に「涙が出っちゃあよ」と。喜びをまっすぐに。

つらく悲しい詩もあるがその中でも輝きを見つけ、憧れとともに前を向く。詩人はゆっくりと空を眺め、もう一度起き上がろうとする。

私も、もう一度起き上がろう、憧れた美しい花へ、憧れた人へ、少しでも近づけるように。そんな気持ちになった。

東京都世田谷区釛子(かねこ)ふたみ(49)

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