【朝晴れエッセー】即席ワンチーム・9月6日 - 産経ニュース

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朝晴れエッセー

即席ワンチーム・9月6日

遅めの出勤の電車の中。乗客はマスクはもちろん、長椅子に等間隔に数人だけ。

1人の青年が「足元すみません」と声をかけている。床に目をやるとチョコレートのような甘い香りが漂う液体が流れてきた。

必死にティッシュペーパーで押さえているが、電車が揺れるたびこぼれた液体が広がる。

手持ちのティッシュペーパーも足りぬようで私もかばんから出すが、コロナ禍でまだワクチン接種しておらず「私物を素手で…」など考えている間に、てきぱきとしたご婦人が現れ、一緒に拭き始めた。

見守る中、高齢男性が紙を差し出す。なんとか拭き終えたが、手は汚れ茶色化したティッシュペーパーの山が床にある。

紙の濡れ手拭を渡すと青年は「ありがとう」と受け取ってくれた。

次に同じく見ていた女性はポリ袋を出し「これに入れて捨てて」と。次に年配のおじさんが「ちり紙ないやろ。帰るまで持っとき」とポケットティッシュを。

駅に近づくと青年は小声で「ありがとうございました」と立ち上がりおじぎした。皆が「おつかれさん」と声をかけ合い解散となった。

まるで大仕事をやり終えた光景である。すがすがしく凜とした、5駅間の15分だけのすてきなワンチームのような雰囲気。

最近は電車に乗っても声を出さぬよう息をひそめ少し緊張している。久々に人情があふれ胸が温かい気持ちになった。一日も早いコロナ収束を心から強く願った。


溝垣智美(50) 大阪府東大阪市