【石仏は語る】死後の供養 自ら生前に たぬきやぶ磨崖仏 - 産経ニュース

メインコンテンツ

石仏は語る

死後の供養 自ら生前に たぬきやぶ磨崖仏

たぬきやぶ磨崖仏
たぬきやぶ磨崖仏

北摂(大阪府北部)の能勢、豊能地域には他力念仏によって、極楽浄土に往生することを目的とした磨崖仏(まがいぶつ)の造立が多くみられます。それらの信仰に基づいて、死後の供養を自らが行う逆修(ぎゃくしゅう)という形の風習があります。「灌頂経(かんじょうきょう)」には、生前での37日間、衆僧を招いて経典を転読し、善行を修する行いによって、その功徳(くどく)は無量となり、果報が得られると説かれています。また、「地蔵菩薩本願経(ほんがんきょう)」には、死後に冥福を祈って修善してもらうことの利益は少なく、むしろ生前に逆修を行う方が、その利益を得るという現実的な教えになっているのです。

豊能町の山間部、集落の周りを山林が囲み、あぜ道、田んぼのなかに石仏などが点在します。その中のひとつに高さ約1・6メートル、幅約4メートルという自然石の巨岩に彫られた磨崖仏があります。苔(こけ)が全面を覆っていて、山形の岩肌の表面中央上部あたりに、像高約25センチの舟形光背を浅く彫り、円光背から斜光する光後光(ひかりごこう)が放たれ、大きな単弁蓮華(れんげ)座の上に来迎阿弥陀如来立像を半肉彫りしています。

阿弥陀如来を中尊として、その左側に4体、右側に2体、下段には10体の合掌する坐像が半肉彫りとして並べられた磨崖仏となっています。このような単純な造作は地域性豊かな石仏とみられ、野趣に富んだ表現は、庶民的なほのぼのさを感じさせます。

この中尊には右に「天正二(1574)年」、左に「十一月廿八日/為比□□」銘があり、桃山時代初期の造作であることが知られます。16体の坐像は、肉彫りの単弁蓮華座に両手を合掌する姿です。それぞれの右肩部分に法名(ほうみょう)と思われる銘が刻まれていたようですが、今は上段右端の坐像に、「妙海」という刻銘が読めるだけです。この坐像数は造立にたずさわった信者を表しており、逆修講中の生前に死後の極楽往生を願って供養し、磨崖仏としたものです。信仰の篤さが感じられます。(地域歴史民俗考古研究所所長 辻尾榮市)