【ザ・インタビュー】宗教改革が時計産業の発展促す? 評論家・山田五郎さん「機械式時計大全」 - 産経ニュース

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ザ・インタビュー

宗教改革が時計産業の発展促す? 評論家・山田五郎さん「機械式時計大全」

「機械式時計大全」を出版した評論家の山田五郎さん(酒巻俊介撮影)
「機械式時計大全」を出版した評論家の山田五郎さん(酒巻俊介撮影)

ファッションや西洋美術、街づくりなどで細かすぎる情報を発信、頼りになる〝五郎教授〟は時計、とくに機械式時計の大家でもあった。「機械式時計大全」(講談社選書メチエ)では「セイコー」「シチズン」の日本メーカーはもとより、「パテック フィリップ」「オーデマ ピゲ」「ブレゲ」などが世界の著名ブランドに達するまでの歩みをたどる。あわせてマニアがのめりこむクロノグラフや天文表示といった複雑機構の仕組みから、針の種類と呼び方にいたるまで、豊富な写真と図解を用いて説明した。

「本当は歴史だけで1冊書きたかったのですが、機械式時計の魅力は歯車の精緻な動きを目で見て楽しめるところ。メカとしての素晴らしさも伝えたい-と機構解説に挑みましたが、言葉で説明する難しさをあらためて痛感しました」

13世紀にヨーロッパで発明されたとみられる機械式時計。本書では「歯車の回転の停止と解放を一定周期で繰り返す機構(脱進機)で、機械的に調速する時計」と定義する。

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小学校低学年の頃、自宅で動かなくなった目覚まし時計を分解したのが、興味の始まりだった。鉄腕アトムや怪獣の体内の想像図を描いた雑誌を食い入るように読んだメカ好き少年は、中学生になるとガラクタ市で壊れた時計を仕入れて分解。町の時計屋の修理作業にも見入った。社会人になると、出張先で時間ができれば古物商をのぞき、珍しい型の時計を手ごろな値段で入手。「腕時計で100本くらいかなあ。ほかに置き時計や懐中時計もそこそこあるし…」

趣味が高じて、30代のころから時計専門雑誌に機械式時計のあれこれを執筆する機会を得る。現物を仕入れるだけにとどまらず、世界の文献でその奥深さを追究しようと考えた。大学時代に1年間、オーストリアのザルツブルク大で西洋美術史を学んだこともあり、英語やドイツ語はお手のもの。世界の研究者が論文を発表する会報を読むため、英国古時計協会にも入った。技術者や時計師もたびたび取材。その過程で気になることがあった。間違った情報や都市伝説を信じている人が意外に多いということだ。

「人類の歴史において時計はとても重要な役割を果たしてきたのに、アカデミックな研究、とくに歴史とメカの双方から論じた研究が少ないせいか、正確な情報が伝わっていないのが残念。本書の歴史パートでは、雑誌などでよく目にする誤解を正したつもりです」

たとえばスイスで時計産業が発達したのは、「水と空気がきれいな山国だから」というのは都市伝説。実は16世紀の宗教改革に起因すると、歴史的事実を挙げきっちり正していった。敏腕編集者らしく、参照ページを頻繁に示し回遊性を高める工夫も施した。

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かつてはスイスで開催された世界最大級の時計見本市「バーゼルワールド」へも足を運んだ。インターネットが発達した現在では、苦労せずに情報を入手できるようになった。ただ「おかげで時計探しも情報収集力より経済力の勝負になってしまい、掘り出し物に出合えなくなりました」と嘆きもする。

水晶発振子の振動で調速する電気で動くクオーツ式時計の正確さ、価格面で手に入りやすさを認める。その一方、絶滅しかけた時期もあるのに復活、何百万円、何千万円出しても手にいれたいファンがいる機械式時計には、機械で動く高級玩具の一面があると見立てる。

「機械式はクオーツ式とは別物で、実用品というより美術品に近いぜいたく品。別の需要があるんですよ」。機械式時計にはまって半世紀。これからもその魅力を伝え続ける。

3つのQ

Q美術展などは年にどれくらい訪れる?

コロナ流行前は40~50展くらい。仏像の博物展は、お寺では拝観できない裏側なども拝める貴重な機会

Q1月からYouTubeで「オトナの教養講座」を始めた理由は?

コロナで美術展関連の仕事が激減したから。視聴者から寄せられる感想や情報のレベルが高くて驚いている

Q定期的に読む雑誌は?

コミック誌を週に4~5冊。湯船につかりながら読むのが編集者時代からの習慣

やまだ・ごろう 昭和33年、東京都生まれ。上智大学卒業後に講談社へ入社し、「Hot-Dog PRESS」や「チェックメイト」誌などの編集に携わる。独立して評論家。著書に「へんな西洋絵画」、「知識ゼロからの近代絵画入門」、小説「真夜中のカーボーイ」など。「出没!アド街ック天国」(テレビ東京系など)や「ぶらぶら美術・博物館」(BS日テレ)に出演中。