【日曜に書く】論説委員・長戸雅子 国際社会むしばむ宗族主義 - 産経ニュース

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日曜に書く

論説委員・長戸雅子 国際社会むしばむ宗族主義

中国国旗=北京(ロイター)
中国国旗=北京(ロイター)

絡まっていた糸がするりとほどけるようだった。本紙で連載された評論家、石平氏の「話の肖像画」で、石平氏が儒教に基づく宗族(父系の血縁社会)主義の弊害―公の精神はなく、「一族」の利益のみを追い求める―を解説していた。国際社会と歩調を合わせることで経済発展を果たした中国や韓国が、それぞれの内政事情があるにせよ、なぜ国際社会のルールや公益と相いれない行動を見せるのか、への明快な指摘だった。

自国びいきの弊害

「彼が当選したら多くの日本人を連れてきて、組織の日本化を進めるだろう」

1999年から2009年まで国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部パリ)のトップである事務局長を務めた松浦晃一郎・アフリカ協会会長は、選挙戦のさなか、フランスのメディアに幾度もこう書かれた。

「西洋文明の牙城」とみられていたユネスコで初のアジア人事務局長が誕生しそうなことへの偏見も含めた警戒だった。

この記事が影響したわけではないが、松浦氏は結局、ひとりの日本人も連れて行かなかった。「多国籍の職員からなる国際機関のトップは高いレベルの中立性、公平性が求められる。自国びいきと思われたら職員の士気に影響する。自国とは適切な距離を保つことが大切です」

職員の採用も公募に絞った結果、国籍数は就任時の120カ国から140カ国まで増えた。

対照的だったのは、第8代国連事務総長を務めた潘基文氏(任期2007~16年)だ。就任から1年5カ月後の時点で契約職員を含む韓国出身の国連職員は51人から64人と2割以上増えていた。64人(当時)の事務総長室スタッフの名簿には潘氏の側近を含めて7人の韓国人の名前が掲載され、他のスタッフは聞き慣れない韓国語でのやり取りに困惑したという。

潘氏は批判を受けるたびに「自国びいきではない」と反論したが、韓国出身者の高官ポストへの就任も目立ち、国連内では一時、「韓国マフィア」との悪口が飛び交うようになった。

公の概念の欠如

外相を務めるなど海外での経験も豊富でえりすぐりの能吏だった潘氏は、国際組織のトップが自国偏重とみられることのデメリットを十分承知していたはずだ。しかし、中国のチベット弾圧には沈黙する一方、日本には歴史認識批判を行うなど中立性を疑う言動が目立った。北京で行われた抗日戦勝記念式典にも出席し、天安門の楼上で軍事パレードを参観する姿は米欧や国連関係者に衝撃を与えた。

石平氏は、「話の肖像画」で儒教の影響が強く残る中国や韓国、北朝鮮では、宗族主義の下、「一族」の繁栄のみが追い求められたと指摘した。政権も一族(私)の政権で、国家という「公」の意識はまずないという。結果として「法の支配、自由、人権、民主主義」の価値観は根付かなかったのだという。

潘氏の姿勢について石平氏は「深いところで宗族主義の影響はあったでしょう。国際社会を公とすれば、韓国はさながら『わが一族』という位置づけだったのでは」と分析する。

大統領経験者の多くが近親者の汚職で責任を問われるのも、国家間の約束をたやすくほごにしてしまうことも、自由主義国なのに言論の自由を縛る「メディア仲裁法」改正案が提案されることも宗族主義とは矛盾しないのかもしれない。

「友人」を警戒せよ

しかし、韓国と中国を比べれば、中国の方が比較にならぬほど深刻だと石平氏は語る。「韓国は周囲を身内で固めるところはあるかもしれないけれど、国際機関や国際社会を乗っ取るという発想まではない。中国共産党はそういう方針でことを進めている」。国際機関のトップに就任し、「自国に有利なルールや世論づくりを探る」という分かりやすい手法だけでなく、「『友情』を掲げ、徐々に侵食していくのが特徴です。身内のように取り込んで、中国共産党の利益になるよう利用する」。

中国寄りの発言で知られる世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長の顔がすぐに思い浮かぶが、日本も人ごとではないという。国会は今年6月、ウイグル問題非難の決議案採決を見送った。「日本は『古い友人』という中国の言葉に弱いけれど、実は『友人だ』と接近されたときこそ一番注意が必要なのです」(石平氏)

宗族主義と国際社会は折り合えないどころか、むしばまれる危険を持っている。(ながと まさこ)