【書評】『限界風俗嬢』小野一光著(集英社・1540円)〝引く対話〟が生んだ奇跡 - 産経ニュース

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書評

『限界風俗嬢』小野一光著(集英社・1540円)〝引く対話〟が生んだ奇跡

風俗店で一番嫌われる客とは?

プレーが終わり、世間話をしているとき、「もうこんな仕事、卒業したほうがいいよ」と諭す客である。

客にとってみたら心底彼女のことを心配したのかもしれないが、当の風俗嬢にとっては余計なお世話、俗に言う上から目線の最たるものである。

風俗嬢取材でも同じことが言える。自分は風俗嬢の味方、といった態度で接しても、彼女にとってはそれこそエラそうな男でしかない。

風俗取材は難しい。

本書「限界風俗嬢」の書き手・小野一光(いっこう)もその難しさはいやというほど体感してきた。

風俗嬢インタビューの極意を彼に聞いたときがある。

「僕は、あんまり聞こうとしないっていう。押さないで引くほうばっかりですね」

意外なようだが、正鵠(せいこく)を得ている。聞き手の圧を感じると、被取材者が引いてしまうのだ。

小野一光のもうひとつの仕事は、事件取材である。死刑を求刑されている被告のもとに足しげく通い心を開かせる。

最近では京都、大阪、兵庫で青酸化合物入りカプセルを飲ませて3人を殺害したなどとして殺人罪などに問われ、死刑が確定した筧(かけひ)千佐子死刑囚とのインタビューがある。

小野一光の〝押さないで引く〟対話が、彼女の閉ざした心に光を差し込ませ、貴重な証言を引き出しただけではなく好意までもたれてしまった。面会室で彼女が胸の辺りでさよならと手を小さく振る最後の別れは切ない。

本書は20年以上にわたる取材で出会った風俗嬢たちのライフヒストリーが描かれている。

あれからどうしていたのか、時間が経過するとそれだけでドラマが生まれる。

過去を消したがる風俗嬢が多いなか、こうして再登場するのは小野一光の人柄によるものだろう。若いころ役者志願だったせいか、キャップをかぶり長身の味がある風貌である。

本書は帳(とばり)の陰から彼女たちをもう一度紙面にカムバックさせた奇跡の書である。

一光はその名とともに、限界風俗嬢の心に一筋の光を差し込ませた。

評・本橋信宏(作家)