約1カ月半に及んだ五輪、パラリンピックを通して人と人、人と社会のつながりの大切さを改めて感じた。コロナ禍にあって差別や貧困など社会の分断が顕在化する中、五輪に200超、パラに160超の国・地域から選手が「東京」に集い、「絆」を再認識した。コロナ禍にあっても前を向く選手、そしてサポートする人たち、大会に携わるさまざまな人たちが「力」を結集してのことだ。
パラリンピック陸上男子で2冠を達成した佐藤友祈は「コロナ禍という特殊な条件下でいろんな人たちに支えられて最高のパフォーマンスを発揮できた」と語った。支え合い、認め合う「絆」が活躍には欠かせない。多様な「個」を尊重する「共生社会」は五輪、パラリンピックの中にある。
大会を通じてたくさんの「感謝」という言葉を聞いた。開催されたことへの感謝、応援してくれる人への感謝、支えに対する感謝。アスリートが競技に打ち込む姿は応援する人たちを巻き込んでいく。「スポーツ」の持つ魅力だ。
「コロナが広まってから、できないことばかりが注目された。僕らは残された機能で、できることを探して磨いてきた。そのことをもっと発信したい」。この気付きが佐藤が「東京」に向かうパワーの一つだった。11歳のときに髄膜炎で両手足の一部を切断したフェンシング女子個人2連覇のベアトリーチェ・ビオ(イタリア)は「困難に立ち向かう力を与えてくれた」のがスポーツと語り、パラ選手たちを「どの選手の背景にも素晴らしいドラマがある。出場した時点で、すでに何かに打ち勝っている」
ボッチャ個人金メダルの杉村英孝は「ボッチャが社会につながるきっかけをくれた」と話す。大会出場のために新幹線で移動できるか、駅に介護タクシーはあるか-。メンバーとするそんな打ち合わせが楽しかったという。こうしたアスリートに活躍の場を整えられたことが「レガシー」であり、バリアフリー化などの取り組みは社会全体にとっての先行投資でもある。
一方でSNS(交流サイト)上での誹謗(ひぼう)中傷など、社会の負の面も浮き彫りになった。大会を通して受け取ったバトンを社会にどう還元していくか、「東京大会」の意味はそこにある。
(運動部長 金子昌世)