本シリーズを今回、ひとまずしめくくるにあたり、「日本近代資本主義の父」と称される渋沢栄一の原点である故郷の武蔵国・血洗島(ちあらいじま)や手計(てばか)の人たちにまつわる逸話を紹介したい。NHK大河ドラマ『青天を衝(つ)け』ファンの方のなかには「あれ? 放送の内容と違うぞ」と感じる方もおられるだろう。そんな史実とドラマの「間」を楽しみながら読み進めていただければ幸いである。
この父にして
「このとき家を去ることを親が許してくれたのは、私は今もなお、わが子をよく知ってくれていたと真に敬服するのです。(父・市郎右衛門が私に)『世間では親孝行というと子がするものと思うけれども、私はそうでないと思う。あれは親が子にさせるので、子がするのじゃない(後略)』と申されたのです」