【私の本棚】時代を超える影響力 浅田彰著『構造と力 記号論を超えて』 - 産経ニュース

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時代を超える影響力 浅田彰著『構造と力 記号論を超えて』

浅田彰著『構造と力 記号論を超えて』(勁草書房)
浅田彰著『構造と力 記号論を超えて』(勁草書房)

批評家の浅田彰さんが昭和58年、26歳の若さで出した思想書としては異例のベストセラーであり、いわゆる「ニュー・アカデミズム」ブームのきっかけともなった一冊です。刊行当時、私は高校3年生。その年に読んで、典型的な理科系だったのが、文系へと志望を変更するほどの衝撃を受けた。この本に出合わなければ、編集者にはなっていなかったとも断言できます。

20世紀の人文学に大変動を起こした仏人類学者レヴィ=ストロースらの「構造主義」の考え方を再定義した上で、ポスト構造主義への展望を独自に示した論考です。その過程で、仏哲学者ラカン、ドゥルーズ、ガタリらの思想も明快に論じられる。「千の否のあと大学の可能性を問う」との副題が添えられた「序に代えて」では、〈自ら「濁れる世」の只中をうろつき、危険に身をさらしつつ、しかも、批判的な姿勢を崩さぬこと〉が提唱されます。その後に〈シラケつつノリ、ノリつつシラケること、これである〉という有名な一節が続く。

当時、すごく漠然と「自分の知の世界を広げたい」と思っていた地方の高校生にとって、まさに〝劇薬〟でした。学びの場としての大学が持つ可能性を教えてくれた。自分なりに「この世界は一体どんな形をしていて、どう動いているんだろう?」という素朴な疑問があったんです。それが人文学の言葉で、世界の複雑性とダイナミズムがこんなにも論理的に、明晰(めいせき)に表現できるのかと驚きました。

インターネットの普及以前に書かれたものですが、資本主義の本質を伝える古典として今でも参照しうる力を持っている。編集者としてはやはり、時代を超えて影響力を持つ本を作りたい。その意味でも、平成10年に『構造と力』を更新するような東浩紀さんの『存在論的、郵便的 ジャック・デリダについて』を編集し、浅田さんから推薦文をいただけたことは感慨深い出来事でした。

やの・ゆたか 昭和40年、岡山県生まれ。京都大経済学部卒。平成元年に新潮社入社。雑誌「03 TOKYO Calling」編集部などを経て、15年から月刊文芸誌「新潮」編集長に。同誌は9月号で通巻1400号を迎えた。