紀伊半島豪雨

住み続ける(下)「水に浸る」土地 それでも離れない

とはいえ、災害は待ってくれない。日足地区や周辺だけでも平成23年の紀伊半島豪雨後、4回の浸水被害が発生している。

400年暮らす場所

紀伊半島豪雨後も相次ぐ被害を受けた住民からの要望もあり、国や和歌山県は対策を加速。日足地区でもかさ上げ工事など対策は進んでいる。

令和元年度から始まったこの工事では、約400メートル区間で5世帯ある宅地と接続する国道周辺を盛り土で約3メートルかさ上げする。総事業費は約7億円で「コスト面からもかさ上げが最適」と県の担当者。今年度中に完成予定だ。

日足地区で住み続けることを選んだ池上順一さん(69)は工事の完成を待ち望んでいる。

「地元の寺の建立時に先祖が寄進した記録が残っている」と池上さんが話すように、少なくとも400年以上代々この地区で暮らしてきた。子供の頃から、台風時に高い土地に家財道具を運んでしのいできた。父親の代から経営するプロパンガス店とガソリンスタンドは、地域にとって欠かせないインフラの一つとなった。

日足地区は明治時代にも災害のたびに住民が減少してきたという歴史があり、「これだけ災害が続けば、外に出ようという気持ちになるのは仕方がない」と話すが、自らは離れることは考えたことがないという。

「地域の人のおかげで商売も続けられているし、土地に愛着はある。災害が起きても、住み続けたい気持ちに変わりはない」

(前川康二)

紀伊半島豪雨 平成23年8月30日から9月5日にかけ、台風12号の影響で紀伊半島を中心に記録的な大雨が降り、山の斜面が岩盤ごと崩れる深層崩壊や、大量の土砂が川をせき止める天然ダムが多発。奈良、和歌山、三重の3県で計88人が死亡・行方不明となった。和歌山県那智勝浦町での死者・行方不明者は自治体別で最多の29人。気象庁が25年に「特別警報」を創設する契機となった。