【朝晴れエッセー】メロンともやし・9月4日 - 産経ニュース

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朝晴れエッセー

メロンともやし・9月4日

こどもは正直である。忖度(そんたく)もしない。それが珍回答、迷回答を生んで笑い話になる。

娘の幼稚園の入園前面接のこと。園長先生を前に、娘と私が並んで座っていた。

先生は幼児向けの果物のイラストが載った絵本を広げると、「指差しした果物の名前を答えてね」と言った。娘はリンゴ、バナナなど小さい声ながらも順序よく答えていく。

すると、娘の声がはたと止まった。メロンだ。そう、絵本に描いてあるような「マスクメロン」はわが家では、まだ食べたことはなかった。

先生は「メロンだね」と教えてくれたものの、娘はきょとんとした顔をしている。

「じゃあ、今度はね、〇〇ちゃんの好きなものは何かな? 教えてくれる?」と先生が聞くと、娘は少し首をかしげたあと、「…もやしのすのもの」と答えた。

先生も思いがけない答えに少しびっくりしているようだ。「あの…三杯酢にゴマを和(あ)えたものをよく食べるんです」。私はそう答えると全身から汗が噴き出してくるのが分かった。

先生も「酸っぱい食べものが好きなんだね」と娘の顔をのぞき込んで笑っている。

このあと、どんなふうに面接が終わったのか記憶にない。ただ、当時の私はおかしさより恥ずかしかった。笑えない気持ちで自転車をこいで帰ったことをはっきりと覚えている。

何年かたって、お盆のお供えのマスクメロンを前に、私の母が娘に意味深に聞いている。「メロン食べる?」

伊藤泰子 49 大阪市中央区