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ライター、永青文庫副館長 橋本麻里 博物館の楽しみ広がる手段に『ミュージアムグッズのチカラ』

橋本麻里さん
橋本麻里さん

『ミュージアムグッズのチカラ』大澤夏美著(国書刊行会・1980円)


博物館(美術館・科学博物館・歴史博物館等含む)に付設されたミュージアムショップ、あるいは特別展の出口に特設されたグッズ売り場。そこで販売されているのは文房具から衣服、アクセサリー、食品までと非常に幅広く、「おしゃれ」や「便利」といった物差しでは評価しきれない、多彩なプロダクトだ。

博物館学の一領域としてのミュージアムグッズ研究に携わり、現在はリトルプレスの刊行からSNSでの普及・広報、グッズそのものの企画まで、ミュージアムグッズ愛好家として活躍する著者は、本書の中で「ミュージアムグッズやショップは、博物館のエンドロールだ」と書く。なるほど、ミュージアムグッズは館のコレクションや建築デザイン、時々の特別展のために集められた作品などをリソースとして、そこで得られた新しい視点や考え方を日常の中によみがえらせ、他のものと組み合わせて異なる文脈を作り出し、第三者と体験の一部を共有することも可能なツール。それ自体が博物館とその活動の延長とも言えるような、魅力的なものが山ほど見つかるはずだ。

たとえば建物からショッパー(紙袋)、グッズまで洗練されたアートディレクションの行き届くアーティゾン美術館、高品質なミュージアムグッズの企画・開発を専門とする企業が運営に携わる長谷川町子美術館・記念館、専門知識を持った学芸員と、ショップを担当するNPOとがタッグを組んでグッズ開発を行う先進的な取り組みが注目される大阪市立自然史博物館。

本書では個性豊かなミュージアムショップの運営ぶりを、詳細なインタビューとして紹介する他、著者が選び抜いた各地の博物館が誇る名品・迷作も多数掲載。博物館の楽しみを拡張する手段としてのミュージアムグッズに、展示を見た後はぜひ注目してほしい。


『現代博物館学入門』栗田秀法編著(ミネルヴァ書房・2750円)


博物館学は、学芸員資格を取るためだけの学問ではない。かつて「学芸員はがん」という閣僚の発言もあったが、博物館の中で、そして外で何が起こっているのか気になり始めた人はぜひ本書を手に取ってほしい。机上の理論にとどまらず、書名のとおり「現代」の博物館が抱えるさまざまな問題があらわにされている。

はしもと・まり 神奈川県生まれ。新聞、雑誌への寄稿の他、NHKの美術番組を中心に日本美術を楽しく、わかりやすく解説。

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