【記者発】心がほっと「共感が生む笑い」 大阪文化部・田中佐和 - 産経ニュース

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記者発

心がほっと「共感が生む笑い」 大阪文化部・田中佐和

「心が震える」感動を味わわせてくれるのが歌舞伎や文楽だとすれば、「心が軽くなる」という感覚を教えてくれたのが、狂言や落語といった「笑い」の芸能だ。今春、文化部への異動を機に新たな世界を知り、そう感じた。

狂言や落語を見終わるといつも、新型コロナウイルス禍で沈みがちな心に、特効薬ではないけれど、優しい効き目の薬を塗ってもらったような気分になる。漫才などの「お笑い」とはどうも質が違う。どこか、朗らかで心地いい。

何が違うのだろうと思っていたとき、京都の大蔵流狂言師、茂山茂さんの説明がすっと胸に落ちた。

「『お笑い』はちょっと変わったところのある、異質なキャラクターが出てきて笑いをとることが多い。でも、狂言や落語の登場人物はどこにでもいそうな人たち。『共感の笑い』だと思います」

狂言の主人公は横着だったりお調子者だったりする太郎冠者(かじゃ)、見栄(みえ)っ張りの大名、気弱な夫、たくましい妻…。鬼も登場するが、こわもての親鬼がかわいい娘鬼のために奮闘することもある。人間味にあふれ感情移入してしまう。市井の人の会話をリアルさを失わないように誇張し、滑稽に見せる落語もそうだろう。

そこには時代を超えて私たちの緊張を解く、人の「情」がある。そして、それは何百年もの歴史の中でそぎ落とされ、磨き上げられた所作や「型」とともに放出されるからこそ、何度も見たくなる美しさとなる。

伝統芸能以外でも最近「好きだな」と感じた笑いがある。4月にマイム俳優、いいむろなおきさんのパントマイム(無言劇)「オリンピアの夢」を見て驚いた。

主人公が時空を超えてオリンピックの歴史をめぐる壮大な話だが、役者の体の表現だけで私の頭の中に不思議なほど次々せりふが浮かぶ。奇抜な動きがあるわけでもないのに〝古代ギリシャ人〟とのやりとりに何度も噴き出した。

いいむろさんは「内側から湧き上がるもので感情を揺さぶり、笑ったり泣いたりしてもらいたい」という。言葉を介さない彼のマイム劇もまた、共感が生む笑いだろう。

コロナ禍の非日常の中でもほんのり楽しい気持ちにさせてくれる優しい笑いにもっと触れていたい。

【プロフィル】田中佐和

平成19年入社。社会部で警察、裁判、行政を取材し、今春から文化部。現在は伝統芸能、演芸、現代演劇を担当している。