「話せない、動けない」 東京パラ聖火ランナーの「場面緘黙症」少女 双子の兄と臨んだ大舞台 - 産経ニュース

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「話せない、動けない」 東京パラ聖火ランナーの「場面緘黙症」少女 双子の兄と臨んだ大舞台

聖火イベントで手を振る杉之原みずきさん(左)と双子の兄、一樹さん=8月(千里さん提供)
聖火イベントで手を振る杉之原みずきさん(左)と双子の兄、一樹さん=8月(千里さん提供)

滋賀県近江八幡市の菓子店「みいちゃんのお菓子工房」でパティシエとして活躍している養護学校中学部2年、杉之原みずきさん(14)は、家族以外の人の前では話すことができず、体も動かすことができない「場面緘黙(かんもく)症」という心の病気を抱えている。そんなみずきさんは今夏、意を決して、東京パラリンピックの聖火ランナーに双子の兄・一樹さん(14)と挑戦。「俺ら2人なら大丈夫や」という一樹さんの言葉通り、大舞台でも堂々とした足取りで聖火をつないだ。

きっかけに

「走るなんて絶対に嫌や…」。母の千里さん(48)が聖火ランナーに当選したことを伝えると、みずきさんはこうこぼしていたという。

みずきさんは、6歳のころに場面緘黙症と診断された。話すことができないほか、自宅以外では字を書くことも歩くこともできない。介助を受けながら小学校に通い、運動会のリレーなどにも参加したことがなかった。

にも関わらず、初めて人前で走ることになったのは世界中の人が注目するパラリンピックの聖火ランナーの舞台。みずきさんにとっては、これまで経験したことない大きな挑戦だ。

「身についた自信がこれからの人生を切り開くと思います」と話す千里さん。もともと不登校だったみずきさんだが、菓子作りに出合ったことをきっかけに、パティシエの夢を持つようになり、昨年1月にはクラウドファンディングなどを通じ、念願の店をオープン。開店日には長蛇の列ができるまでとなった。

だからこそ、「この挑戦も人生を変えるきっかけにしてもらいたい」と千里さんは聖火ランナーに応募。「娘自身も自分の可能性に気づけるんじゃないかな」と語る。

双子の兄と

「聖火ランナーになれるなんてすごいぞ」。最初は出ることをためらっていたみずきさんだが、伴走を務めることになった一樹さんの話を聞くうちに「やってみようかな」とやる気が出てきたという。

どんな時もみずきさんを気にかけてきた一樹さん。小学校のころは人前で水が飲めないみずきさんが脱水症状にならないよう、人がいない場所に連れていったり、みずきさんと同級生の懸け橋になったりと常に妹を支えてきた。

「夢をかなえて、頑張っているみずきのことは本当に尊敬している」と語る一樹さん。パラリンピック開幕を控えた8月中旬、琵琶湖畔でみずきさんと走る練習を終えると、「絶対に成功すると確信した。2人で元気に走りたい」と笑顔を見せた。

 野球のバットをトーチに見立てて練習する杉之原みずきさん(右)と双子の兄、一樹さん=8月、滋賀県近江八幡市
野球のバットをトーチに見立てて練習する杉之原みずきさん(右)と双子の兄、一樹さん=8月、滋賀県近江八幡市
人生の誇りに

そして迎えた本番。新型コロナウイルスの影響で、当初予定していた公道でのリレーは中止となったため、2人は代替の聖火をつなぐセレモニーに参加した。

出番の直前まで不安そうな表情を浮かべていたみずきさんだが、一樹さんがトーチを持つと、自然に手を添えることができた。一歩一歩しっかりと地面を踏みしめ、次第に柔らかい表情に。一樹さんと二人三脚で、希望の炎をつないだ。

「緊張したが、2人で聖火を無事につなげた。人生で一度のチャンスなので、良い思い出になると思います」と振り返る一樹さん。千里さんも「大勢の人がいる中、自分の手で聖火をつなげたことは人生の誇りになると思う」と大仕事をやり遂げた2人をねぎらった。この経験を胸に刻み、愛娘が自分の足で人生を歩むことができることを願っている。(清水更沙)

「みいちゃんのお菓子工房」では、家族以外とは話せないみずきさんが自立したパティシエとして店を続けることができるよう、「非対面型」の営業の実現など2年後のグランドオープンに向けた準備が進められている。

開店日には行列ができるほどの人気店となったが、ケーキの受け渡しをするみずきさんの家族が常駐するのは難しく、平日は店を開けることが困難な状況が続く。

これからもみずきさんがパティシエの道を歩むことができるよう、家族が考案したのは、特注のロッカー式冷蔵庫を店前に設置すること。みずきさんが直接、来店者と話さなくてもケーキを渡すことができる仕組みだ。千里さんは「将来的には自分の力でもお店がずっと続くことができたらうれしい」と話している。

現在、クラウドファンディング(CF)を通じて協力を呼び掛けており、2日時点で目標額の9割以上を達成した。10月中旬まで、CFサイト「キャンプファイヤー」( https://camp-fire.jp/projects/view/463594 )で支援を募っている。

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