高齢者の避難対策を担うのが市の大塔支所だ。同支所では豪雨後、地区ごとに住民の避難経路を記載した独自の電話帳を作成。台風前や災害時には一人暮らしや移動が困難な高齢者に早めの避難を呼び掛け、場合によっては避難所までの送迎も行う。吉川佳秀支所長(58)は「お年寄りはすぐには動けない。空振りは覚悟の上だ」と力を込める。
地域防災に詳しい宮崎大工学部の村上啓介教授は「過疎化が進む災害リスクの高い地域で40年、50年先まで共助が働くかは難しい」と指摘。十津川村のような行政主導での2拠点居住も一つの手段だが、五條市の担当者は「そこまでしなくてもという住民も多い。現実的なハードルは高いだろう」と話す。
危険予測に光も
紀伊半島豪雨では岩盤が根こそぎ崩れる深層崩壊が奈良、和歌山、三重の3県で72カ所発生。このうち、奈良県が54カ所を占めた。
紀伊半島は地質的に土砂災害が起きやすく、地下水をためる断層もできやすいハイリスク地域。そこに住み続ける人がいる限り、行政も可能な限りのハード対策を施すことが理想だが、「危険とされる場所が多すぎて予算の面で現実的ではない」と自治体の担当者は口をそろえる。
だが近年、国土交通省国土技術政策総合研究所などによる調査研究が進み、光も見えつつある。奈良県砂防・災害対策課の担当者は「災害対策の優先順位をつけられるようになる」と指摘し、こう強調した。
「住民が住んでいる場所の災害リスクを把握し、災害時の避難行動につなげる意識を持ってもらうことこそが何より大事だ」
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局地的な豪雨災害が毎年起きる中、過疎化が進む集落で安全に住み続ける手立ては何か。10年前の紀伊半島豪雨の爪痕と教訓から考える。(桑島浩任、田中一毅)
紀伊半島豪雨 平成30年8月30日から9月5日にかけ、台風12号の影響で紀伊半島を中心に記録的な大雨が降り、山の斜面が岩盤ごと崩れる深層崩壊や、大量の土砂が川をせき止める天然ダムが多発。奈良、和歌山、三重の3県で計88人が死亡・行方不明となった。気象庁の警報が、自治体の避難勧告、指示の発令や住民の迅速な避難行動につながらなかったため、25年に「特別警報」を創設する契機となった。