国土交通省国土技術政策総合研究所(茨城県つくば市)が、斜面の岩盤ごと崩れ、大規模な土砂災害を起こす「深層崩壊」のリスクを予測する新手法を開発したことが3日、分かった。深層崩壊で多くの犠牲者を出した平成23年9月の紀伊半島豪雨から10年。事前に危険箇所を把握できれば、効率的な予防工事や住民の避難体制構築につながると期待される。
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深層崩壊をめぐっては近年、メカニズムの解明が進み、地下水が要因であることが判明している。
同研究所によると、深層崩壊が起きた場所には、地下水をせき止める粘土層を含む断層があるケースが多いという。雨でその断層の上部に雨水が地下水としてたまっていくと、やがて水圧や水を含んだ土の重さで斜面のバランスが崩れ、深層崩壊が起きるとされる。豪雨はその引き金となることが多い。
このため、危険予測では「水をせき止める断層を見つけることがカギになる」と同研究所の木下篤彦主任研究官は話す。国交省では磁気をキャッチするセンサーを搭載したドローン(小型無人機)を使用し、そのセンサーで地中にある断層の性質を測定。リスクの高い粘土層を含む断層を把握する手法を開発した。
実際に紀伊半島豪雨で深層崩壊が発生した和歌山県田辺市熊野(いや)地区を、昨年10月にこの手法で試験的に調べたところ、リスクのある断層が複数カ所あることがわかった。
新手法により効率的に危険箇所を把握することで、あらかじめ断層に水を逃がすための穴を掘る予防的工事を行うことが可能になるという。木下主任研究官は「リスクの詳細な評価・分析方法はこれから。自治体が独自に危険箇所を調べることができれば、安全対策につながる」と話している。(桑島浩任)
紀伊半島豪雨 平成23年8月30日から9月5日にかけ、台風12号の影響で紀伊半島を中心に記録的な大雨が降り、山の斜面が岩盤ごと崩れる深層崩壊や、大量の土砂が川をせき止める天然ダムが多発。奈良、和歌山、三重の3県で計88人が死亡・行方不明となった。気象庁の警報が、自治体の避難勧告、指示の発令や住民の迅速な避難行動につながらなかったため、25年に「特別警報」を創設する契機となった。