【スポーツが未来を変える】安全・安心な大会運営、東京がレガシーに びわこ成蹊スポーツ大学 佃文子教授

びわこ成蹊スポーツ大学の佃文子教授
びわこ成蹊スポーツ大学の佃文子教授

東京五輪・パラリンピックには、アスリートだけでも約1万5千人が参加しています。各国・地域オリンピック委員会(NOC)や国際競技団体(IF)の役員、大会組織委員会(組織委)のスタッフ、会場のボランティアも合わせると、とても多くの人が集まることが想定されていました。このような状態をマスギャザリングと呼びます。「一定期間の中で限定された地域において、同一の目的で集合した多人数の集団」(日本集団災害医学会より引用)のことを示しています。

こうした人たちのために組織委は医務(メディカル)体制を準備しました。体制は競技場内でアスリートや監督、コーチ、競技役員らを対象とする部門と、運営スタッフや報道関係者、観客を対象とする部門に分かれています。特に競技場内の安全管理には、組織委が国際オリンピック委員会(IOC)、IFと連携し国際水準の医務体制を構築します。現場の救護対応には、迅速で確実なレベルの高い国際水準が求められます。そのため、競技に精通した医師と医療従事者、トレーナー等補助スタッフでチームを組み、対応方法についての事前研修やeラーニングを活用して準備やトレーニングが行われました。特に今回は、国際水準の救護対応と暑熱環境で発生が危惧される熱中症への対応に加え、新型コロナウイルス感染症対策が加わり、求められるレベルと対応方法は多岐にわたりました。

このような組織的なメディカル体制の下で、大会期間中は世界水準の救急初動を確実に回していくことが各競技会場の現場に求められていました。私の印象ですが、これまでの国内スポーツの現場では、ラグビーなど衝突のある競技では搬送訓練などが行われていましたが、その他の競技では試合の開始前に救急搬送の練習をすることは少なく、救急処置に対応する人材も資機材も機会も限られていたと思います。しかし東京五輪・パラリンピックでは、すべての競技会場で有事の際の搬送練習が救護活動の開始前に行われました。会場によっては、救急隊や水上安全を担当するレスキュー隊とメディカル担当者が連携し、救急の際の「初動」「評価」「処置」「搬送」の訓練が頻繁に行われていたのも印象的です。テレビ中継の中でも「現在は試合の開始前で、救護の方々が会場で救急搬送の確認をされていました」とコメントされていましたね。

このような有事に備えたトレーニングが、多くの競技会場で医師をはじめとした多職種のメディカルスタッフによって行われたことで、専門職域へのリスペクトと協働への理解が深まったのは言うまでもありません。大会期間中に、安全管理を担当した仲間の輪も五輪のようにつながり広まりました。競技会場で救護に関わる全てのスタッフが、国際水準の安全、安心な大会運営を目指した働きかけを共有し、担った経験は、これから多くの地域に伝わると思います。そして、スポーツに携わるすべての人々の、スポーツの安全に対する意識を変えていくのではないでしょうか。未来のスポーツの安全、安心を支えるためのレガシー(遺産)として、東京五輪・パラリンピックは大きな役割を果たしていると思います。

佃文子(つくだ・ふみこ) 大阪府出身、筑波大学大学院修士課程体育研究科修了、専門はアスレティックトレーニング学。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーとして、スピードスケートやアーティスティックスイミングの日本代表選手をサポート。びわこ成蹊スポーツ大学健康・トレーニング科学コース主任としてアスレティックトレーナーの養成に関わる授業を担当しながら、滋賀県競技力向上対策本部などで活動中。

スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。