「特攻回天『遺書』の謎を追う」出版 取材の舞台裏つまびらかに - 産経ニュース

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「特攻回天『遺書』の謎を追う」出版 取材の舞台裏つまびらかに

『特攻回天「遺書」の謎を追う』
『特攻回天「遺書」の謎を追う』

先の大戦で日本軍が開発した人間魚雷「回天」の搭乗員のものとされた遺書が創作だったことを記事にした産経新聞前山口支局員で、現在は東京本社社会部の大森貴弘記者が、取材の経緯などをまとめた著書「特攻回天『遺書』の謎を追う」(展転社)を出版した。

「回天」搭乗員のものとインターネット上で流布していた「18歳の回天特攻隊員の遺書」について、創作した人物の実像について丹念な取材で明らかにした。また、本紙令和2年8月12日付の朝刊1面で「『18歳の回天特攻隊員の遺書』 元海軍士官男性創作か」と報じた後に寄せられた「創作遺書」に関する新たな情報なども盛り込んだ。本体1500円(税抜き)。

先の大戦がすでに歴史資料によって考察される段階に入ってしまった-。

回天研究者から情報を得て「創作遺書」問題の取材にあたった筆者は本書でこう指摘する。今回の衝撃的なスクープの背景には、戦争体験を次世代に語り継ぐことの難しさ、危うさがあるとする。

記憶は長い時間を経て混乱し、意識無意識を問わず上書きされていく。目の前で語られる「証言」の確認は今後ますます難しくなっていく。今回明らかになった遺書問題はその課題を象徴するものだとする。

本書では、遺書を創作したとされる人物の矛盾点を、膨大な資料から実証していく過程を詳細に描く。

ノンフィクションライターの常井健一氏はニュースサイト、BLOGSのインタビュー(平成28年2月)で、メディアが信頼を失った理由として「取材のプロセスを隠してしまっていること」を挙げる。

取材源の秘匿は、記者教育の一丁目一番地として叩き込まれる原則だ。ただそれは、全てをブラックボックスとすることと同義ではない。「オールドメディア」と批判されることが多い業界の一員として、常井氏の指摘は鋭く、重い。

昨今、調査報道の手法について概説を試みた『公文書危機 闇に葬られた記録』(毎日新聞出版)をはじめ、取材の舞台裏を開示、説明しようとする動きは出始めている。本書もまた、われわれ記者がどのように取材対象と向き合っているかをつまびらかにすることで、再び信頼を得ようとする試みの一つといえよう。(中村雅和)